「製紙業界は縮んでいる」という言い方をよく聞く。紙が電子に置き換わり、需要が減り、工場が閉じていく——おおむねそういう筋書きで語られる。
この筋書きは半分は当たっている。だが半分は外れている。減っているのは印刷物に使う紙であって、物流に使う紙は減っていない。そして製紙各社は、この 2 つを違う比率で持っている。だから全社の売上だけを並べても、減収の意味が会社ごとに違ってしまう。
本稿では、3 月期決算の製紙・板紙 9 社の中間決算を並べる。9 社の合計では売上が 1.1% 減り、営業利益率は 2.91% から 2.35% へ落ちた。だが、その中には減収なのに利益率を上げた会社と、減収と利益率低下が同時に来た会社の両方がある。用紙を仕入れる側にとって、この差は他人事ではない。
この記事が見ている数字
使うのは、各社が金融庁の EDINET に提出した半期報告書である。対象は決算期が 3 月で、前年同期と当期の中間期がそろっている製紙・板紙 9 社とした。12 月期決算の会社は入れていない。対象の 6 か月が 3 か月ずれるためである。
数え方について、先に断っておくべきことが 2 つある。
- これは全社の数字である。 王子ホールディングスも日本製紙も、洋紙のほかに板紙・家庭紙・パッケージ・不動産まで持つ。「洋紙の業績」を取り出したものではない。本稿でセグメントの話ができないのは、この制約による
- 合計は編集部の集計である。 会社ごとの数字は提出書類そのものだが、9 社の合計と利益率はどこかが発表している統計ではない
紙の需要は 3 つの別々の場所から来ている
数字に入る前に、需要の出どころを整理しておきたい。ここを混ぜたまま数字を見ると、必ず読み違える。
洋紙——印刷用紙・情報用紙——の需要は、印刷物そのものである。カタログ、チラシ、書籍、帳票。これらが電子に置き換わると、そのまま数量の減少になる。減っているのはここである。
板紙・段ボールの需要は物流である。通販の箱、青果の外装、工業製品の梱包。モノが動くかぎり必要になるので、電子化の影響を直接には受けない。むしろ通販が伸びれば増える。
家庭紙・特殊紙は、ティッシュや紙おむつ、あるいは電池用セパレータのような工業用途である。景気との連動が弱く、生活必需品に近い。
この 3 つを、各社が違う比率で持っている。だから「製紙業界」という括りで平均を取ると、まったく違う商売を足し合わせた数字が出てくる。以下の数字を読むときは、この点を常に頭に置いてほしい。
同じ木から違う紙ができる、という前提
もうひとつ、供給側の事情として押さえておきたいことがある。これら 3 つは、原料の入口をかなりの部分で共有しているということである。
洋紙も板紙も、出発点は木材チップと古紙である。パルプにするまでの工程は共通する部分が多く、そこから先の抄紙で、坪量・表面処理・繊維の配合を変えて別の製品になる。つまり供給側は、同じ原料の値上がりを 3 つの製品すべてで同時に受ける。
ところが売る先は 3 つとも違う。洋紙の需要は減り、板紙の需要は減らない。同じ原料高を受けても、値上げを通せる相手と通しにくい相手がいることになる。減っている市場で値上げを通すのは、増えている市場で通すよりはるかに難しい。
洋紙の採算が構造的に苦しくなるのは、需要が減っているからというだけではない。需要が減っている市場に、共通の原料高が同じだけ乗ってくるからである。
洋紙系はそろって減収している
| 会社 | 売上(前年同期 → 当期) | 増減率 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|
| 王子ホールディングス | 9,229 億円 → 9,150 億円 | -0.9% | 4.0% → 1.8% |
| 日本製紙 | 5,845 億円 → 5,892 億円 | +0.8% | 0.4% → 1.5% |
| 大王製紙 | 3,336 億円 → 3,194 億円 | -4.3% | 1.1% → 2.7% |
| 北越コーポレーション | 1,494 億円 → 1,398 億円 | -6.4% | 6.0% → 1.4% |
| 三菱製紙 | 884 億円 → 790 億円 | -10.6% | 1.1% → 0.1% |
| 中越パルプ工業 | 556 億円 → 531 億円 | -4.5% | 5.6% → 2.6% |
| 特種東海製紙 | 466 億円 → 479 億円 | +2.9% | 4.0% → 4.9% |
| レンゴー | 4,951 億円 → 4,972 億円 | +0.4% | 4.0% → 4.0% |
| トーモク | 1,051 億円 → 1,091 億円 | +3.8% | 3.0% → 4.1% |
三菱製紙が -10.6%、北越コーポレーションが -6.4%、中越パルプ工業が -4.5%、大王製紙が -4.3%。洋紙の比率が高い会社ほど、減収の幅が大きいという形が出ている。
一方、段ボールを主力とするレンゴーは +0.4%、トーモクは +3.8% で、減っていない。同じ半年、同じ国内市場で、方向が逆になっている。
この分岐は今期に始まったことではない。ただ、それが決算の数字にここまで素直に出ているのは、確かめておく価値がある。「紙が売れない」という言い方が使えるのは洋紙の話をしているときだけで、包装の話に持ち込むと成り立たなくなる。
製紙は「止められない」産業である
ここで、なぜ減収がそのまま利益率の悪化になりやすいのかを、産業の性質から押さえておきたい。ここを理解しておくと、以降の各社の動きが読めるようになる。
製紙は典型的な装置産業である。抄紙機は一台あたり数百億円規模の設備で、いったん動かせば連続で操業する。パルプを煮る釜も、乾燥のための蒸気を作るボイラーも、止めたり動かしたりを繰り返す前提では作られていない。
この構造から、2 つのことが導ける。
- 固定費の比率が高い。 設備の減価償却費、保守費、最低限の人員は、生産量が減っても減らない。売上が 1 割減れば、利益はそれ以上の割合で減る
- 稼働率が利益率を直接決める。 同じ設備で多く作るほど、1 トンあたりの固定費負担は小さくなる。逆に注文が減ると、1 トンあたりの原価が上がる
つまり減収は、単に売上が減るだけでは終わらない。減った売上のぶんだけ 1 トンあたりの固定費が重くなり、利益率をさらに押し下げる。三菱製紙が売上 -10.6% で営業利益率 1.1% → 0.1%、北越コーポレーションが売上 -6.4% で 6.0% → 1.4% と、減収幅を超えて利益率が落ちているのは、この構造で説明がつく。
だから「設備を減らす」という選択が出てくる
稼働率が利益率を決めるなら、需要が構造的に減っていくときの答えは決まってくる。需要に合わせて設備を減らし、残した設備の稼働率を上げる。抄紙機の停機、生産拠点の統合、品種の集約はすべてこの一手である。
仕入側から見ると、この動きは 2 つの形で表れる。ひとつは銘柄の廃番で、もうひとつは最低ロットの引き上げである。設備を減らせば、少量の品種を流す余裕が先に無くなる。「作れるが、その量では流せない」という返答が増えるのはこのためである。
減収でも利益率が上がる会社がある
売上の増減と利益率の増減を並べると、素直な関係になっていないことが分かる。
大王製紙は売上を 4.3% 落としながら、営業利益率を 1.1% から 2.7% へ上げた。金額でも営業利益は 37 億円から 86 億円へ増えている。日本製紙も、売上はほぼ横ばいで営業利益は 21 億円から 90 億円へ増えた。
売上を落として利益を増やすというのは、数量を捨てて採算を取りにいったときに出る形である。採算の合わない銘柄をやめる、生産拠点を統合する、値上げに応じない取引から引く。どれも短期には売上を減らすが、利益率は上がる。
これは仕入側から見ると、けっして良い知らせではない。「銘柄の統廃合が続く」という予告として読むのが妥当である。
数量と単価は同時には取れない
装置産業の性質を踏まえると、供給側が抱えているのは単純なトレードオフだと分かる。
稼働率を上げたいなら、価格を下げて数量を取ればよい。1 トンあたりの固定費負担は下がる。しかし単価が下がるので、利益率は上がらないかもしれない。逆に価格を維持すれば単価は守れるが、注文が減って稼働率が落ち、1 トンあたりの原価が上がる。どちらを選んでも、片方は悪くなる。
この局面で「価格を維持し、合わない数量は捨てる」を選んだのが大王製紙や日本製紙の数字である。売上を落としながら営業利益を増やしているのは、その選択の帰結として整合する。
ここで大事なのは、この選択が一過性ではないということである。値引きで数量を取り戻す方針に戻るなら、それは利益率を再び手放すことを意味する。いったん採算を優先する構えに変えた供給側が、翌期にそれを覆す理由は乏しい。仕入側は「値上げが一巡すれば元に戻る」という前提を置かないほうがよい。
ただし、これは開示された数字から読める形の話であって、各社がそう明言しているわけではない。ここは解釈として読んでほしい。
逆に、減収と利益率低下が同時に来た会社
もう一方の型もある。北越コーポレーションは売上が 6.4% 減り、営業利益率も 6.0% から 1.4% へ 4.6 ポイント落ちた。営業利益の額は 90 億円から 20 億円へ減っている。9 社の中でいちばん大きな下げ幅である。
王子ホールディングスも、売上はほぼ横ばい(-0.9%)ながら営業利益率が 4.0% から 1.8% へ落ちた。金額では 372 億円から 167 億円へ、205 億円の減である。9 社合計の営業利益の減少額の大半をこの 1 社が占めている。
ここで、比率を金額に戻す手順を通しておきたい。9 社の合計利益率は 2.91% から 2.35% へ 0.56 ポイント落ちたが、この下げは王子ホールディングス 1 社でほぼ説明できる。他の 8 社を合計すると、営業利益は微増している。
実際、9 社の営業利益は 808 億円から 645 億円へ 163 億円減っているが、王子ホールディングスを除いた 8 社では 436 億円から 478 億円へ 42 億円増えている。1 社の 205 億円減が、他の 8 社の改善を打ち消して余りある。
したがって「製紙 9 社の採算が悪化した」という要約は正確ではない。正しくは「1 社が大きく落ち、それが合計を押し下げた」である。そして王子ホールディングスは洋紙・板紙・家庭紙・海外事業を併せ持つ複合企業であり、その全社数値の下げが洋紙で起きたのかどうかは、この集計からは分からない。
規模の大きい会社ほど、平均を動かす
本稿の集計は各社の利益率を平均したものではなく、売上の合計を分母に、営業利益の合計を分子に置いたものである。だから売上の大きい会社ほど結果に強く効く。王子ホールディングスの売上は 9 社合計の 3 分の 1 を占めるので、この 1 社が動けば合計も動く。
これは前稿の 3 月期 39 社の集計でも、インキ 11 社の集計でも同じように起きたことである。合計の利益率が動いたら、まず「いちばん大きい会社が何をしたか」を確かめる。それだけで説明がついてしまうことは珍しくない。
この数字で分からないこと
本稿の限界を明示しておく。
- セグメントが見えない。 本稿の最大の弱点である。洋紙・板紙・家庭紙の別は、各社のセグメント情報を読まなければ分からない。本稿は全社数値だけを扱っている
- 銘柄別の数量が分からない。 「どの銘柄が減ったのか」は開示されない。仕入側がいちばん知りたい情報は、この書類には無い
- 海外事業の影響。 王子・日本製紙・北越はいずれも海外に生産拠点を持つ。為替と現地市況が全社数値を動かす
- 一過性の損益。 生産拠点の再編があれば、その期の費用が営業利益を押し下げる。半年という短い窓ではこの影響が相対的に大きくなる
- 9 社という母集団。 上場している製紙・板紙メーカーの一部であり、業界全体ではない
- 紙の値段そのものは扱っていない。 本稿は各社の損益を見ただけで、市況の予測はしていない。相場観を書く材料を持っていない
まとめ — 仕入の実務にどう当てるか
確かめられたことを整理する。
- 3 月期の製紙・板紙 9 社の中間期の売上は 2 兆 7,812 億円 → 2 兆 7,496 億円(-1.1%)、営業利益率は 2.91% → 2.35%
- 洋紙系は軒並み減収(三菱製紙 -10.6%、北越 -6.4%、中越パルプ -4.5%、大王 -4.3%)
- 板紙・段ボール系は減っていない(レンゴー +0.4%、トーモク +3.8%)
- 減収でも利益率を上げた会社(大王・日本製紙)と、両方落ちた会社(北越・王子)がある
- 合計利益率の下げは、王子ホールディングス 1 社でほぼ説明できる
次回の column-biz-kami-shiire-2027 では、同じ 9 社・同じ 2 指標で追いかける。答えたい問いは 2 つ。洋紙の減収は同じ速度で続いたのか。そして「減収でも採算を取る」型の会社が増えたのか。
仕入側が明日からできること
この数字から読める前提は、「銘柄の統廃合はこの先も続く」という一点である。数量を捨てて採算を取る動きが出ている以上、採算の合わない銘柄から順に消えていく。そのうえで、実務としては 3 つ手が打てる。
- 主要銘柄の代替を先に検証しておく。 廃番の連絡が来てから探すと、色・厚み・平滑度の確認を短い納期でやることになる。使用量の多い銘柄から順に、代替候補を 1 つずつ試し刷りしておく
- 在庫の持ち方を銘柄ごとに決める。 全銘柄を等しく持つ必要はない。代替が効かない銘柄(特定の色・特殊な厚み・指定銘柄)だけを厚めに持ち、代替が効くものは薄くする。判断の基準は使用量ではなく代替可能性である
- 見積の有効期限を運用として決める。 用紙が原価に占める比率は大きい。有効期限を書いていない見積は、原価が動いたときにそのまま損益に効く。長納期の案件ほどここが効く
本記事は公開情報(EDINET に提出された半期報告書等)の整理・解説であり、投資判断を目的としたものではない。数値は各社の提出書類に基づくが、最終的な確認は原本に当たられたい。