印刷会社の決算を並べていると、ときどき自分たちより先に動く数字に出くわす。機材メーカーの業績である。
印刷機は、注文してから据え付けるまでに時間がかかる。だから機材メーカーの売上には、印刷会社が「買う」と決めた時点の判断が現れている。逆に言えば、機材メーカーの数字が落ちたということは、その数か月前に印刷会社の側で何かが起きていたということでもある。
3 月期決算の機材メーカー 5 社の中間期を集計すると、営業利益率が 10.83% から 8.21% へ 2.6 ポイント落ちていた。39 社全体の集計で確かめたとおり、業界全体の営業利益の減少 239 億円のうち 219 億円がこの 5 社で起きている。9 割である。
ただし、その 5 社の中で 1 社だけが逆に利益率を上げている。この記事では、その数字を確かめたうえで、「層の平均は個社を説明しない」という読み方まで書く。
この記事が見ている数字
使うのは、各社が金融庁の EDINET に提出した半期報告書である。対象は決算期が 3 月で、前年同期と当期の中間期がそろっている機材メーカー 5 社とした。
先に、この集計のいちばん大きな制約を書いておく。
使っているのは全社の売上と営業利益であって、印刷向け事業だけを取り出したものではない。この 5 社はいずれも印刷以外の事業を大きく抱えている。SCREEN ホールディングスの主力は半導体製造装置であり、東芝テックは流通業向けのシステムとリテールソリューションを持つ。「印刷機材が売れたかどうか」を、この数字から直接読むことはできない。
それでも並べる意味はある。全体の数字がどこで動いたかを特定するには、まず全社数値で場所を絞る必要があるからだ。場所を絞るための集計であって、原因を言い当てるための集計ではない。この区別は最後まで守る。
機材 5 社は減収・減益だった
| 会社 | 売上(前年同期 → 当期) | 増減率 | 営業利益率 |
|---|---|---|---|
| SCREEN ホールディングス | 2,774 億円 → 2,743 億円 | -1.1% | 21.0% → 16.9% |
| 東芝テック | 2,892 億円 → 2,577 億円 | -10.9% | 3.3% → -0.4% |
| サトーホールディングス | 761 億円 → 782 億円 | +2.8% | 7.6% → 6.5% |
| 小森コーポレーション | 501 億円 → 522 億円 | +4.1% | 2.6% → 6.0% |
| ミマキエンジニアリング | 409 億円 → 394 億円 | -3.8% | 11.5% → 10.1% |
| 5 社合計 | 7,337 億円 → 7,018 億円 | -4.4% | 10.83% → 8.21% |
合計では売上が 4.4% 減り、営業利益率は 2.6 ポイント落ちた。営業利益の額では 795 億円から 576 億円へ、219 億円の減である。
下げ幅が大きいのは SCREEN ホールディングス(-4.1 ポイント)と東芝テック(-3.7 ポイント)である。東芝テックは営業赤字(-0.4%)に入っている。
参考までに、12 月期決算のリョービも同じ方向に動いている。売上 1,537 億円 → 1,568 億円(+2.0%)で、営業利益率は 3.9% から 2.8% へ落ちた。決算期が違う会社も同じ方向に動いているなら、それは市場環境の話である可能性が高い。ただし決算期が違うので、5 社の合計には入れていない。
機材の利益率は、なぜ振れ幅が大きいのか
この 5 社の利益率が 10% を超えていること自体、印刷業界の中では例外的である。印刷会社 12 社の平均は 4.77%、紙・材料 18 社は 3.36% だった。機材だけが桁ひとつ違う世界にいる。
そして高いだけでなく、動きも大きい。1 期で 2.6 ポイント動く層は他にない。この 2 つは同じ構造から出ている。
- 開発費が先に出る。 新機種の開発費は、売れる前に費用として計上される。開発の山と販売の山がずれるので、同じ会社でも期によって利益率が大きく変わる
- 1 台あたりの金額が大きい。 数千万円から数億円の機械を数百台という商売なので、案件の期ずれが数十億円単位で損益を動かす。印刷物のように毎日細かく積み上がる商売とは、数字の滑らかさが違う
- 製品が差別化されている。 特定の用途で代わりが効かない機械は、価格競争に晒されにくい。利益率が高くなるのはこのためである。ただし、その用途の需要が落ちると逃げ場もない
つまり機材の層は、構造的に「高くて振れる」。今回の 2.6 ポイントの下げも、この振れ幅の中では特別に大きいとは言い切れない。1 期の動きで趨勢を語れないのは、この層でとくに強く当てはまる。
全体の下げは、ほぼこの 5 社で説明できる
39 社全体の営業利益は 2,799 億円から 2,559 億円へ 239 億円減った。層ごとの増減額を並べると、機材 5 社の -219 億円が突出している。紙・材料 18 社は -107 億円だが、印刷 12 社が +69 億円、流通・サービスが +17 億円を積み増したことで、ある程度打ち消されている。
ここで使っている手順は単純である。比率が動いたときは、必ず金額に戻して「誰が動かしたのか」を特定する。比率は分母と分子の両方で動くので、それだけを見ていると原因の場所を取り違える。
この手順を通すと、「印刷業界の利益率が落ちた」という要約は使えなくなる。正しくは「印刷業界向けの機材を作っている 5 社の全社利益率が落ちた」である。この 2 つは、自社の経営判断に与える意味がまったく違う。前者なら自社も同じ流れの中にいるが、後者なら自社は関係がないかもしれない。
それでも 1 社は逆に上げている
小森コーポレーションは、売上を 4.1% 伸ばしたうえで営業利益率を 2.6% から 6.0% へ、3.4 ポイント上げた。営業利益の額では 13 億円から 31 億円へ増えている。
同じ層の東芝テックは 3.3% から -0.4% へ 3.7 ポイント下げ、営業赤字に入った。同じ半年、同じ「機材」という括りの中で、一方は 3.4 ポイント上げ、もう一方は 3.7 ポイント下げている。
これは、層別の集計を読むときに必ず思い出しておきたい事実である。層の平均は、その層に属する個社の説明にはならない。自社と同じ層の平均が下がっていても、それは自社が下がる理由にはならない。逆もまた同じである。
ただし「上げた」の中身は確かめる必要がある
小森コーポレーションが 3.4 ポイント上げたことをそのまま「好調」と読むのは早い。出発点が 2.6% だったという事実を併せて見る必要がある。
同じ層の SCREEN ホールディングスは 16.9%、ミマキエンジニアリングは 10.1%、サトーホールディングスは 6.5% である。この中で 6.0% は、下から数えたほうが早い水準にとどまる。3.4 ポイントの改善は、低い位置から少し戻した動きであって、層の中で抜けたわけではない。
変化幅(何ポイント動いたか)と水準(いま何パーセントか)は別の指標である。変化幅だけを見ると低位からの回復が大きく見え、水準だけを見ると改善の兆しを見落とす。両方を並べないと、その会社がどこにいるのかが分からない。
この点は自社の数字を見るときも同じである。前年比で大きく改善した年ほど、その改善が「低いところから戻っただけ」なのか「以前より高い水準に届いたのか」を確かめておきたい。
層で括ることに意味があるのはどこまでか
では層別の集計は無意味なのかというと、そうではない。使いどころが決まっているだけである。
- 使える:全体の変化がどこで起きたかを絞り込む。「39 社の利益率が落ちた」を「機材の 5 社で落ちた」まで縮める
- 使える:複数の層が同じ方向に動いたときに、市場環境の話かどうかを疑う材料にする
- 使えない:個社の業績を予想する。層の平均から個社は導けない
- 使えない:自社の目標値にする。同じ層の中で 20 ポイント以上開くことがある
層の平均は場所を示す矢印であって、水準を示す物差しではない。矢印の先を見にいったあとは、個社の書類を読むしかない。
「機械が売れない」は何を意味するか
ここからは解釈になる。数字が示しているのは「機材 5 社の全社利益率が落ちた」という事実までで、その理由は各社の開示から推し量るしかない。
まず構造として、設備投資は数年の周期で動く。印刷機の耐用年数は長く、更新は「壊れたから」ではなく「償却が終わったから」「新しい仕事が取れそうだから」といった判断で決まる。だから需要は毎年一定にはならず、更新が集中した年の翌年には必ず反動が来る。
半年という窓で見れば、この波の谷にあたっているだけかもしれない。中間期 1 回の比較で、趨勢が変わったとは言えない。
加えて、この 5 社の全社数値には印刷以外の事業が大きく含まれている。半導体製造装置の市況、流通業のシステム投資、いずれも印刷業界とは別の周期で動く。SCREEN ホールディングスの 4.1 ポイントの下げを「印刷機材が売れなかった」と読むことはできない。
受注残という、この集計に写らない数字
機材メーカーの業績を見るときに、損益計算書だけでは足りない理由がもうひとつある。受注と売上計上の時期がずれることである。
大型の設備は、受注してから据え付けと検収を経て売上になる。つまりいま計上されている売上は、半年から 1 年前の受注であることが多い。逆に、いま受注が積み上がっていても、それが売上になるのは先である。
だから「機材メーカーの売上が減った」は、「いま印刷会社が買っていない」を必ずしも意味しない。半年前から 1 年前に買われなかったことを意味している。この時差を頭に入れずに、機材の数字を足元の景況感として読むと誤る。
各社は決算資料で受注高や受注残高に触れることがあるが、開示の粒度は会社ごとに違い、半期報告書の本表には必ずしも載らない。本稿の集計は、この点で片手落ちであることを認めておく。
川上・川下と、時間の向き
ここまでで、印刷業界の周辺には性質の違う 3 つの時間が流れていることが分かる。整理しておきたい。
| 層 | 数字が写しているもの | 時間の向き |
|---|---|---|
| 機材 | 半年〜1 年前の受注(=そのときの投資判断) | 過去を写す |
| 紙・材料 | 直近の相場と、契約更改のタイミング | ほぼ同時 |
| 印刷 | 受注済みの仕事の消化と、遅れて届く原価 | 遅れて写る |
同じ「2026 年の中間期」という 6 か月を切り取っても、写っている時点が層ごとに違う。前稿で「機材が落ちた期に印刷が上がった」という一見ちぐはぐな結果が出たのは、この時間のずれで説明がつく部分がある。
したがって、層をまたいで因果を組み立てるときは、必ず時間の向きを確かめる。「機材が落ちたから印刷が上がった」のではないし、その逆でもない。それぞれが違う時点の出来事を写しているだけかもしれない。
この数字で分からないこと
- 印刷向けセグメントが分離できない。 本稿の最大の限界である。5 社とも印刷以外の事業が大きく、全社数値の動きが印刷機材で起きたのかどうかは分からない
- 受注残が見えない。 上で述べたとおり、売上は過去の受注の結果である。足元の需要は損益計算書には現れない
- 海外比率と為替。 印刷機は輸出比率が高い。現地通貨で横ばいでも円換算では動く
- 一過性の損益。 開発費の計上時期、拠点の再編、引当金。半年という短い窓ではこれらの影響が相対的に大きい
- 5 社という母集団。 印刷機材メーカーには非上場の会社や、海外に本社を置く会社が多い。この 5 社は業界の一部でしかない
- 中間期 1 回では趨勢は決まらない。 波の谷なのか構造の変化なのかは、この 1 回の比較では判断できない
まとめ — 次回に持ち越す問いと、設備計画への当て方
確かめられたことを整理する。
- 3 月期の機材 5 社の中間期の売上は 7,337 億円 → 7,018 億円(-4.4%)、営業利益率は 10.83% → 8.21%
- 営業利益の額では 219 億円の減。39 社全体の減少 239 億円の 9 割を占める
- 下げたのは 4 社。小森コーポレーションだけが 2.6% → 6.0% と上げた
- 12 月期のリョービも同じ方向(3.9% → 2.8%)に動いている
次回の column-biz-kizai-toushi-2027 では、同じ 5 社・同じ 2 指標で追いかける。答えたい問いは 2 つ。この下げは波の谷だったのか。そして小森コーポレーションの改善は続いたのか。1 社だけの動きが 2 期続けば、それは固有の事情ではなく再現性のある何かだったことになる。
設備計画を立てる側が、この数字をどう使うか
結論から言えば、この数字を「買い時かどうか」の判断には使えない。全社数値で印刷向けが見えず、受注残も分からない以上、需給の逼迫や緩みを読み取る材料にはならない。相場を煽る材料としても使うべきではない。
使えるのは次の 2 点である。
- 自社の更新計画を、業界の波と切り離して考える材料にする。 設備投資が数年周期で動くということは、「まわりが買っている時期」と「自社にとって必要な時期」は一致しないということでもある。周囲の投資意欲を見て決めるのではなく、自社の償却の終わり方と受注の見通しから決めるほうが筋が通る
- メーカーの体力を、長期の保守の前提として見る。 印刷機は 10 年、20 年と使う。買うときに見るべきは価格と性能だけではなく、その期間にわたって部品と保守が続くかどうかである。全社の利益率が高いか低いかは、その判断のごく一部の材料になる
本記事は公開情報(EDINET に提出された半期報告書等)の整理・解説であり、投資判断を目的としたものではない。数値は各社の提出書類に基づくが、最終的な確認は原本に当たられたい。