ここまでの 4 本で、印刷業界の周辺にある上場企業の中間決算を層ごとに見てきた。全体では営業利益率が落ち、機材メーカーが下げ、紙・材料も下げ、印刷会社だけが少し上げた。

ただ、平均を見ているかぎり分からないことがある。同じ半年で、利益率を上げた会社が何をしていたのかである。

そこで本稿では、抽出の条件を先に決めて機械的に拾った。中間期の営業利益率が前年同期比で 1.0 ポイント以上上がり、かつ売上が 20 億円以上の会社である。3 月期と 12 月期を合わせて 16 社が該当した。

この 16 社を横に並べると、上げ方が 2 通りに分かれることが見えてくる。そして、そのうちいくつかは来期には残らない種類の改善である。その切り分け方までを書く。

この記事が見ている数字と、抽出のしかた

使うのは、各社が金融庁の EDINET に提出した半期報告書である。抽出の条件は次のとおりで、これは編集部が決めたものである。どこかが発表しているリストではない。

  • 営業利益率が前年同期比 +1.0 ポイント以上。純利益ではなく営業利益で見る(特別損益で振れるため)
  • 当期の売上が 20 億円以上。母数が小さいと、1 件の案件で利益率が振り切れる
  • 前年同期と当期の中間期がそろっていること。片方しか無い会社は入れない

並べ方についても断っておく。3 月期と 12 月期を合算した集計は作っていない。対象の 6 か月がずれるためである。表では決算期を明記して並べるだけにとどめ、合計は出さない。

また、前期が赤字だった会社の増減率は書かない。率が意味を持たないので、そのときは金額で書く。

なぜ売上ではなく利益率で抽出するのか

「伸びている会社」を探すなら、増収率で並べるほうが直感的である。それをしない理由を書いておきたい。

売上は、増やそうと思えば増やせるからである。価格を下げれば数量は増える。仕入を伴う商売を足せば売上は膨らむ。会社を買えば、買った会社の売上がそのまま乗る。どれも売上は増えるが、経営が良くなったとは限らない。

利益率はそうならない。値引きで数量を取れば利益率は下がる。利幅の薄い商売を足しても下がる。だから利益率が上がったという事実は、少なくとも「安売りで数字を作ってはいない」ことを意味する。

もっとも、利益率にも弱点はある。規模を縮めれば上げられる。採算の悪い部門を閉じれば率は上がるが、会社は小さくなる。だから本稿では、利益率の変化幅と売上の増減率を必ず並べて見る。片方だけでは、その会社が何をしたのかが決まらない。

上げた会社は 2 つに分かれる

中間期に営業利益率を1ポイント以上上げた会社を、横軸に売上増減率、縦軸に営業利益率の変化幅で配置した散布図。増収で上げた会社と減収でも上げた会社に分かれている
3 月期決算の該当社。縦線より左が「減収でも上げた」会社

横軸に売上の増減率、縦軸に営業利益率の変化幅を取ると、該当社が 2 つの領域に分かれる。

会社決算期売上増減率営業利益率
光ビジネスフォーム(単体)12 月期+8.8%0.6% → 9.1%
ムサシ3 月期+20.2%3.7% → 11.8%
DIC12 月期+13.3%5.2% → 8.7%
小森コーポレーション3 月期+4.1%2.6% → 6.0%
東京インキ3 月期+9.3%1.2% → 4.5%
光村印刷3 月期-3.8%-4.4% → -1.5%
エフピコ3 月期+4.0%5.6% → 7.8%
ナカバヤシ3 月期-3.2%1.5% → 3.6%
フジシールインターナショナル3 月期+3.9%8.7% → 10.7%
竹本容器12 月期+5.9%6.8% → 8.6%
太陽ホールディングス3 月期+13.2%20.8% → 22.4%
大王製紙3 月期-4.3%1.1% → 2.7%
日本製紙3 月期+0.8%0.4% → 1.5%
トーモク3 月期+3.8%3.0% → 4.1%
ダイナパック12 月期+15.1%4.5% → 5.6%
artience12 月期+12.4%5.6% → 6.6%

増収で上げた会社が 13 社、減収でも上げた会社が 3 社(光村印刷・ナカバヤシ・大王製紙)である。この 2 つは、同じ「利益率の改善」でも意味がまったく違う。

増収で上げた会社が開示していること

増収と利益率の改善が同時に起きるとき、増えた売上の利幅が、もとからあった売上の利幅より厚いということになる。あるいは、売上が増えたことで固定費の負担が薄まっている。

該当社の半期報告書に共通して現れるのは、次の 3 つの言葉である。

  • 価格改定 —— 売価を上げ、それが数量を大きく損なわずに通った
  • 製品構成 —— 利幅の厚い製品の比率が上がった。同じ売上でも中身が変わっている
  • 稼働率 —— 生産量が増えたことで、1 単位あたりの固定費負担が下がった

DIC(5.2% → 8.7%)、東京インキ(1.2% → 4.5%)、artience(5.6% → 6.6%)といったインキ・材料の会社が上位に並ぶのは、別稿で見たとおり、この半年が「転嫁が通った局面」にあたっていたためと読める。

フジシールインターナショナル(8.7% → 10.7%)と太陽ホールディングス(20.8% → 22.4%)は、もともと利益率の高い会社がさらに上げた例である。高い水準から上げるほうが、低い水準から上げるより難しいことは押さえておきたい。伸びしろが小さいからである。

減収なのに上げた会社が開示していること

もう一方の型が興味深い。売上を落としながら利益率を上げた 3 社である。

大王製紙は売上を 4.3% 落として営業利益率を 1.1% から 2.7% へ上げた。営業利益の額でも 37 億円から 86 億円へ増えている。ナカバヤシも売上 -3.2% で 1.5% → 3.6% である。

売上を落として利益を増やすというのは、数量を捨てて採算を取りにいったときに出る形である。採算の合わない品目をやめる、生産拠点を統合する、値上げに応じない取引から引く。どれも短期には売上を減らすが、利益率は上げる。

この型は、増収で上げた会社より再現性が高いことが多い。市況が戻れば消える改善ではなく、事業の構成そのものを変えた結果だからである。ただし、売上を落とし続ければいずれ固定費を賄えなくなるので、どこかで止まる。この型が 2 期、3 期と続くかどうかは注意して見る必要がある。

「捨てる」という判断が難しい理由

採算の合わない仕事をやめれば利益率が上がる、というのは計算としては明白である。それでも実行されにくいのは、印刷業の原価構造に理由がある。

印刷は設備と人という固定費の比率が高い商売である。機械は仕事があってもなくても償却が進み、オペレーターの人件費も同じようにかかる。この構造では、限界利益がわずかでもプラスなら、受けたほうが固定費の回収に貢献する。「赤字でも受けたほうがマシ」という判断は、短期的には算術として正しい。

だから捨てる判断は、短期の算術に逆らって下すことになる。その仕事をやめたあとに空いた設備と時間を、何で埋めるかを決めてからでないと成立しない。埋める先が無いまま捨てれば、売上だけが減って固定費はそのまま残る。

本稿の 3 社が減収でも利益率を上げられたのは、少なくとも結果として埋め合わせができていたということである。ただし各社が何をしたのかは、全社数値からは分からない。ここは推測の域を出ない。

一過性と構造をどう切り分けるか

ここまでの整理を、確かめる手順の形にしておく。利益率が上がった数字を見たときに、それが来期も残るかを判断するための 4 つの問いである。

利益率の改善が一過性か構造かを切り分ける4つの問い。来期も続くか、自社で再現できるか、原価が下がったのか価格が上がったのか、同業も同じ方向に動いたか
同じ「利益率が上がった」でも、持続するものとしないものがある

① 来期も続くか

営業利益は特別損益を含まないが、それでも一過性の要素は混ざる。為替差益(営業外に入ることが多いが、海外子会社の売上換算を通じて営業段階にも効く)、補助金の受入、引当金の戻入、大型案件の期ずれ。これらは来期には無い。

② 自社で再現できるか

大型案件がたまたま重なったのか、受注のしかたそのものを変えたのか。後者だけが翌期に持ち越せる。半期報告書の「経営者による分析」の章に、どちらとして書かれているかが手がかりになる。

③ 原価が下がったのか、価格が上がったのか

これがいちばん効く問いである。原価が下がったことによる改善は、相場が戻れば消える。一方、価格が上がったことによる改善は契約として残る。同じ利益率でも、持続性がまるで違う。

本稿の 16 社でいえば、インキ・材料の会社の改善は価格側の要因が大きいと読める。一方、原燃料価格の落ち着きが効いている会社もあるはずで、その区別は全社数値からは付かない

④ 同業も同じ方向に動いたか

層の全社が同じ方向に動いたなら、それは市場環境の話である。1 社だけなら、その会社に固有の事情の話である。自社に当てはめて考えてよいのは前者だけで、後者を真似ようとしても再現しない。

今回でいえば、インキ 3 社がそろって上げたのは環境の話として読める。一方、機材の層で小森コーポレーションだけが上げたのは、別稿で見たとおり固有の事情の可能性が高い。

大きく動いた数字ほど、疑ってかかる

抽出結果の上位 2 社は、いずれも 8 ポイントを超える改善である。ここは慎重に読みたい。

光ビジネスフォームは 0.6% から 9.1% へ 8.4 ポイント上げているが、確かめるべき点が 3 つある。単体の数字であること(連結ではない)、売上が 41 億円と小さいこと、そして前期の 0.6% という水準が異常に低かったことである。前期がほぼ損益ゼロなら、少しの改善で率は大きく動く。

ムサシも 3.7% から 11.8% へ 8.2 ポイント上げているが、売上が 20.2% 増えている。この規模の増収は、通常の営業活動の積み上げというより、特定の需要が集中したときに出る形である。

光村印刷は -4.4% から -1.5% へ 2.9 ポイント改善しているが、いずれも営業赤字である。赤字幅が縮んだことと、利益が出たことは別のことだ。抽出条件が「変化幅」だけなので、こうした会社も機械的に入ってくる。

数字が大きく動いたときは、まず母数と前期の水準を確かめる。これは他社を見るときだけでなく、自社の数字を見るときにも同じである。

変化幅で並べることの副作用

本稿の抽出条件は「変化幅が +1.0 ポイント以上」である。この条件の副作用を明示しておきたい。

変化幅で並べると、低い位置にいる会社ほど上位に来やすい。利益率 1% の会社が 3% になれば +2 ポイントだが、20% の会社が 22% になっても同じ +2 ポイントである。前者のほうが達成しやすく、後者のほうが難しい。それが同じ数字として並ぶ。

実際、本稿の上位には前期の利益率が 5% を下回っていた会社が集まり、太陽ホールディングス(20.8% → 22.4%)のような高水準からの改善は下のほうに位置している。順位は「頑張った順」ではない。

では水準で並べればよいかというと、それはそれで別の話になる。利益率の高い会社の一覧は業種構成をなぞるだけで、「この半年で何が起きたか」は見えない。変化を見たいなら変化幅、実力を見たいなら水準——問いに応じて並べ替えるしかない。本稿は前者を扱っている。

この数字で分からないこと

  • 抽出条件は編集部が決めたものである。 「+1.0 ポイント以上」「売上 20 億円以上」という線は恣意的で、線を動かせば顔ぶれも変わる
  • 半期報告書の記述は要約である。 「価格改定により」と書かれていても、その影響額は書かれないことが多い。本稿はこの記述を手がかりとして扱い、数字としては使っていない
  • セグメントが見えない。 全社数値なので、どの事業で改善したのかは分からない
  • 非上場企業は入っていない。 印刷会社の大半は非上場であり、この 16 社は開示義務のある会社だけで選ばれた集団である
  • 3 月期と 12 月期を並べて示しているだけで、合算した集計は作っていない。表を横に読むときは決算期の欄を必ず見てほしい

まとめ — 次回に持ち越す問いと、自社への当て方

確かめられたことを整理する。

  • 中間期の営業利益率を 1.0 ポイント以上上げた会社は、3 月期・12 月期あわせて 16 社
  • うち 増収で上げたのが 13 社、減収でも上げたのが 3 社
  • 増収型はインキ・材料に集中しており、価格改定が通った局面の形と整合する
  • 減収型は数量を捨てて採算を取った形で、再現性は高いが続けられる期間に限りがある
  • 上位 2 社の大幅な改善は、母数の小ささと前期の低水準を確かめたうえで読む必要がある

次回の column-biz-riekiritsu-ageta-2027 では、同じ抽出条件で同じ作業をする。答えたい問いは 1 つである。今回の 16 社のうち、何社が来期も残るか。2 期続けて条件を満たした会社があれば、それは一過性ではない何かをしたことになる。定点観測を続ける価値は、この一点にある。

自社の数字に当てる 4 つの手順

  1. 前年同期と比べる。 前期末や予算ではなく、前年の同じ半年と比べる。季節性が打ち消せるのはこの比べ方だけである
  2. 売上と利益率を必ず並べる。 どちらか一方だけを見ていると、増収で上げたのか減収で上げたのかが分からない。この 2 つを並べた時点で、自社がどちらの型かが決まる
  3. 4 つの問いを自社の改善に当てる。 とくに③(原価が下がったのか、価格が上がったのか)は、来期の計画の立て方を変える
  4. 大きく動いた数字ほど、母数と前期の水準を確かめる。 「前年比 3 倍」の多くは、前期がほぼゼロだったことの言い換えである

本記事は公開情報(EDINET に提出された半期報告書等)の整理・解説であり、投資判断を目的としたものではない。数値は各社の提出書類に基づくが、最終的な確認は原本に当たられたい。