決算を見るとき、多くの人は通期の数字を見る。年に一度の確定値で、監査も通っている。比べるならそれがいちばん確かだ。

ただ、通期だけを見ていると分からないことがある。変化が起きた瞬間が半年ぶん遅れて届くことだ。上半期に何かが変わっていても、下半期の数字と混ざったあとでしか見えない。現場の受注感は毎月動いているのに、確かめる材料が年に一度しか来ない。

そこで本稿では、3 月期決算の上場 39 社の中間期を横断で集計した。前回の記事(増収なのに、なぜ利益率は戻らないのか)は同じ 39 社の通期 5 期ぶんを見たので、今回はその続きにあたる。ただし通期と中間期の数字は決して混ぜない。半年ぶんの売上を通期と並べれば、それだけで話が壊れる。

結果を先に書く。売上はほとんど動いていない。それなのに営業利益率は 4.85% から 4.42% へ落ちた。そして落としたのは印刷会社ではなく、機材メーカーだった。

この記事が見ている数字

使うのは、各社が金融庁の EDINET に提出した半期報告書である。2024 年の制度改正で四半期報告書が廃止され、上半期の法定開示はこの半期報告書に一本化された。中間連結損益計算書が載っているので、売上高と営業利益が会社をまたいで同じ定義で並ぶ。

対象は、印刷業界に関係する上場企業のうち決算期が 3 月で、前年同期と当期の中間期がそろっている 39 社とした。会社ごとの数字は各社の提出書類そのものだが、合計・層別の利益率はすべて編集部が集計したもので、どこかが発表している統計ではない。数え方を先に書いておく。

  • 連結が正。 子会社を持たず単体しか作らない会社が 1 社(大村紙業)含まれる。表には載せているが、連結と同じ精度で比べられるものではない
  • 通期と混ぜない。 前回記事の通期の数字とこの記事の中間期の数字は、同じグラフに載せていない
  • 12 月期決算の会社は入れていない。 DIC やサカタインクスのように 12 月が期末の会社は、同じ「中間期」でも対象期間が 3 か月ずれる。こちらは 12 月期だけを集めた別稿で扱う
  • 営業利益で見る。 純利益は資産の売却益や減損で大きく振れる。半年という短い期間ではその影響がさらに出やすい

中間期は通期の半分ではない

読み進める前に、ひとつ釘を刺しておきたい。中間期の数字を 2 倍しても通期にはならない。

印刷業界には季節性がある。年度末に向けた印刷物、カタログの改訂期、歳暮・中元のパッケージ、学校向けの教材。どれも特定の四半期に寄っている。会社によって寄り方が違うので、上半期の利益率が低い会社が通期でも低いとは限らない。

だから本稿は「前年同期と比べて何が変わったか」だけを見る。同じ半年どうしを比べるなら季節性は打ち消し合う。通期の着地がどうなるかは書かない。

半期報告書のどこを読むか

半期報告書は 100 ページを超えることもあるが、業界を横断で見るなら読む場所は決まっている。

ひとつは中間連結損益計算書で、売上高から営業利益までが 4 行ほどで並んでいる。本稿が集計に使っているのはここだけである。もうひとつは「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」で、数字が動いた理由を会社自身の言葉で書いている箇所である。

後者は要約であって、根拠のすべてではない点に注意が要る。「原材料価格の高騰により」と書かれていても、その影響額がいくらだったかまでは書かれないことが多い。本稿でも、この記述は解釈の手がかりとして使うにとどめ、数字として扱ってはいない。

売上はほとんど動いていない

まず全体の合計から見る。

上場39社の中間期の売上高と営業利益率の2期比較。売上高は5兆7,653億円から5兆7,864億円へほぼ横ばい、営業利益率は4.85%から4.42%へ低下している
3 月期決算 39 社の中間期。売上はほぼ横ばいで、営業利益率だけが落ちている

売上高の合計は 5 兆 7,653 億円から 5 兆 7,864 億円。増減率にして +0.4% で、誤差と言ってよい水準である。

この「動かなさ」自体が、ひとつの情報になっている。ここ数年、印刷業界の売上を押し上げてきたのは数量ではなく価格改定だった。前回記事で見たとおり、上場 39 社の売上は 5 年で 2 割増えたが、従業員数はほとんど増えていない。増えたのは 1 人当たりの売上、つまり単価である。

その価格改定が、少なくともこの半年では一巡したように見える。値上げで積み上げてきた売上の伸びが止まり、平らな期になった。

それでも営業利益率は落ちた

売上が横ばいなら、利益も横ばいでよさそうなものである。ところがそうならなかった。

営業利益の合計は 2,799 億円から 2,559 億円へ、239 億円減った。率にすれば 4.85% から 4.42% へ 0.43 ポイントの低下である。

0.43 ポイントという数字は小さく見えるかもしれない。しかし営業利益率が 5% 前後の業界で 0.43 ポイントというのは、利益の 1 割弱が消えたということを意味する。売上が 1% も動いていないのに利益だけが 8.5% 減った、と言い換えたほうが体感には近い。

売上が変わらず利益だけが減るとき、原因は 2 つに絞られる。売っているものの中身が変わったか(構成の悪化)、同じものを作るのに前より金がかかるようになったか(原価の上昇)である。どちらが起きたのかは、全体の数字を見ているかぎり分からない。層に分けるところから始める必要がある。

落ちたのは印刷会社ではない

39 社を 4 つの層に分けた。印刷会社 12 社、紙・材料 18 社、機材 5 社、流通・サービス 4 社である。層の分け方は編集部によるもので、公式の分類ではない。

4層別の営業利益率の2期比較。印刷は4.6%から4.8%へ上昇、紙・材料は3.7%から3.4%へ低下、機材は10.8%から8.2%へ大きく低下、流通・サービスは2.1%から6.4%へ上昇している
下げたのは紙・材料と機材。印刷会社はむしろ上げている
社数売上(前年同期 → 当期)営業利益率
印刷12 社1 兆 7,985 億円 → 1 兆 8,664 億円(+3.8%)4.57% → 4.77%
紙・材料18 社3 兆 1,977 億円 → 3 兆 1,797 億円(-0.6%)3.67% → 3.36%
機材5 社7,337 億円 → 7,018 億円(-4.4%)10.83% → 8.21%
流通・サービス4 社353 億円 → 385 億円(+9.0%)2.11% → 6.40%

層に分けると、全体の平均がまったく違う顔を見せる。

印刷会社 12 社は増収で、利益率も上げている。売上は 3.8% 増え、営業利益率は 4.57% から 4.77% へ 0.2 ポイント改善した。全体が落ちている期に、印刷会社だけは前に進んでいる。

下げたのは紙・材料(3.67% → 3.36%)と機材(10.83% → 8.21%)である。とくに機材の 2.6 ポイントという下げ幅は他の層と桁が違う。

流通・サービス 4 社が 2.11% から 6.40% へ大きく上げているように見えるが、この層は 4 社・売上合計 385 億円と小さい。1 社の動きで層の平均が振り切れるので、業界の傾向としては読まないほうがよい。

全体の下げは、ほぼ機材 5 社で説明できる

利益率だけを見ていると「どの層も少しずつ下げた」という印象になりやすい。金額で見ると話がはっきりする。営業利益の増減額を層ごとに並べたものが次の図である。

中間期の営業利益の増減額を層別に示した図。印刷は+69億円、紙・材料は-107億円、機材は-219億円、流通・サービスは+17億円で、全体では-239億円
全体で 239 億円の減。機材だけで 219 億円を占める

全体の減少 239 億円に対し、機材 5 社だけで 219 億円が失われている。実に 9 割である。紙・材料 18 社は 107 億円のマイナスだが、印刷 12 社が 69 億円、流通が 17 億円を積み増したことで、その分がある程度打ち消されている。

これは決算を読むときに繰り返し役に立つ手順である。比率が動いたときは、必ず金額に戻して「誰が動かしたのか」を特定する。比率は分母と分子の両方で動くので、それだけを見ていると原因の場所を取り違える。

今回の場合、「印刷業界の利益率が落ちた」という言い方は正確ではない。正しくは「印刷業界向けの機材を作っている 5 社の利益率が落ちた」である。この 2 つは、自社の経営判断に与える意味がまったく違う。

上げた会社のほうが多い、という事実

もうひとつ、平均だけを見ていると見落とすことがある。会社ごとの営業利益率の変化幅を並べてみる。

39社の営業利益率の変化幅を大きい順に並べた図。21社が上昇、18社が低下している
39 社のうち 21 社が営業利益率を上げている。それでも合計は下がった

39 社のうち 21 社が営業利益率を上げ、18 社が下げた。社数で言えば上げたほうが多い。それなのに合計の利益率が下がったのは、下げた側に売上の大きい会社が集まっていたからである。

社数の多数決と、合計の平均は一致しない

この食い違いは、算数として当たり前のことである。本稿の集計は各社の利益率を平均したものではなく、売上の合計を分母に、営業利益の合計を分子に置いたものだからだ。つまり売上の大きい会社ほど結果に強く効く。

極端な例で確かめてみる。売上 1,000 億円の会社が 1 社と、売上 10 億円の会社が 9 社あるとする。大きい 1 社が利益率を 5% から 4% へ 1 ポイント下げ、小さい 9 社が全社 5% から 6% へ 1 ポイント上げたとしよう。社数では 9 対 1 で「上げた」が勝つ。しかし合計で計算すると、利益は 54.5 億円から 45.4 億円へ減り、合計の利益率は 5.0% から 4.2% へ落ちる

どちらの見方が正しいというものではない。問いが違うだけである。「業界全体でいくら稼いだか」を知りたければ合計で見る。「うちのような規模の会社はどうだったか」を知りたければ、社数の分布や規模を揃えた比較を見る必要がある。本稿が合計を採っているのは前者を扱っているからで、後者を知りたい読者は分布の図のほうを見てほしい。

上げ幅の大きい順に見ると、ムサシ(3.7% → 11.8%)、小森コーポレーション(2.6% → 6.0%)、東京インキ(1.2% → 4.5%)が並ぶ。下げ幅では北越コーポレーション(6.0% → 1.4%)、SCREEN ホールディングス(21.0% → 16.9%)、広済堂ホールディングス(20.7% → 17.0%)、東芝テック(3.3% → -0.4%)が目立つ。

ここで注意したいのは、小森コーポレーションと東芝テックが同じ「機材」の層にいることである。層の平均は 10.83% から 8.21% へ落ちたが、その中で一方は 3.4 ポイント上げ、もう一方は 3.7 ポイント下げて営業赤字に入っている。

層の平均は、その層に属する個社の説明にはならない。自社と同じ層の平均が下がっていたとしても、それは自社が下がる理由にはならない。逆もまた同じである。

機材が落ちた期に、印刷が上がったのはなぜか

ここからは解釈になる。数字が示しているのは「機材が下げ、印刷が上げた」という事実までで、その理由は各社の開示から推し量るしかない。

まず構造として、値上げの効果は川上から川下へ時間差で伝わる。原材料が上がると、まず材料メーカーの原価が上がり、遅れて売価に転嫁される。その転嫁を受けた印刷会社は、さらに遅れて自社の売価に乗せる。契約の更改周期と在庫の回転がある以上、この遅れはなくならない。

この遅れがどこから来るのかを、もう少し分解しておく。印刷会社が仕入価格の上昇を売価に乗せるまでには、少なくとも 3 つの関門がある。

  • 在庫の回転。 値上げ前に仕入れた用紙やインキが倉庫にあるうちは、原価はまだ上がらない。逆に言えば、在庫を使い切ってから原価が上がり始める。回転が遅い品目ほど、原価上昇の到達も遅れる
  • 契約の更改周期。 年間契約や定期物の単価は、次の更改まで動かせない。期中に原価が上がっても、売価が追いつくのは早くて数か月、遅ければ 1 年後になる
  • 見積の有効期限。 すでに提出した見積で受注した仕事は、その価格で刷るしかない。長納期の案件ほど、受注時と生産時の原価が乖離する

この 3 つはいずれも「時間」の問題であって、交渉力の問題ではない。どれだけ交渉が上手でも、構造的に遅れは残る。だから川上と川下の利益率は、同じ局面でも逆の方向に動くことがある。

前回の通期の記事で、紙・材料の層だけが 5 年を通じて利益率を落としていたことを確かめた。今回の中間期でも紙・材料は下げ、印刷は上げている。川下ほど遅れて改善するという同じ形が、通期でも中間期でも出ていることになる。

機材については、これとは別の要因が働いていると考えるほうが自然である。設備投資は数年の周期で動く。更新が集中した年の翌年は必ず反動が来る。半年という短い窓で見れば、この波の谷にあたっているだけかもしれない。

加えて、この層の 5 社はいずれも印刷以外の事業を大きく抱えている。SCREEN ホールディングスの主力は半導体製造装置であり、東芝テックは流通向けのシステムを持つ。全社の数字を「印刷機材の売れ行き」として読むことはできない。この点は次章の限界にも直結する。

この数字で分からないこと

ここまでの話には、はっきりした限界がある。読み違えないために書いておく。

  • 39 社は業界の一部でしかない。 印刷会社の大半は非上場である。この集計に入っているのは、開示義務のある会社だけで選ばれた偏った集団である
  • セグメントが見えない。 本稿が使っているのは全社の売上と営業利益である。印刷向けの事業だけを取り出したものではない。機材 5 社ではこの影響がとくに大きい
  • 為替と海外の比率が違う。 海外売上の比率が高い会社ほど、為替の動きだけで利益率が動く。今回の集計はそこを調整していない
  • 一過性の損益が混ざる。 営業利益は特別損益を含まないが、それでも引当金の計上や事業の整理が半年の数字を動かすことはある
  • 季節性を消しきれていない。 前年同期と比べているので大半は打ち消されるが、決算期の変更や大型案件の期ずれまでは調整できない
  • 中間期 1 回では趨勢は決まらない。 機材の下げが波の谷なのか、構造の変化なのかは、この 1 回の比較では判断できない

とくに最後の点は重要である。定点観測の 1 回目は、次回と比べるための基準を置くことに意味がある。今回の 4.42% という数字も、来年の同じ集計と並べてはじめて意味を持つ。

まとめ — 次回に持ち越す問いと、自社の数字の当て方

この半年で確かめられたことを整理する。

  • 3 月期 39 社の中間期の売上は 5 兆 7,653 億円 → 5 兆 7,864 億円(+0.4%)とほぼ横ばい
  • 営業利益率は 4.85% → 4.42%。金額では 239 億円の減
  • 減少の 9 割は機材 5 社で起きている。印刷 12 社は増収で利益率も改善した
  • 社数では 21 社が上げ、18 社が下げた。合計が下がったのは、下げた側に大きい会社が偏ったため

次回の column-biz-2027-chukan では、同じ 39 社・同じ 4 層・同じ 2 指標(売上増減率と営業利益率)で追いかける。そのときに答えたい問いは 2 つある。機材の下げは一時のものだったのか。そして印刷会社の改善は続いたのか。

自社の中間期を同じやり方で見る

この記事の集計は、自社の数字にもそのまま当てられる。手順は 4 つである。

  1. 前年同期の売上と営業利益を並べる。 前期末や予算ではなく、前年の同じ半年と比べる。季節性が打ち消せるのはこの比べ方だけである
  2. 比率が動いたら、必ず金額に戻す。 「利益率が 0.5 ポイント落ちた」を「利益が何百万円減った」に直す。金額に直すと、どの得意先・どの製品で起きたかを追える形になる
  3. 売上が動いていないのに利益が動いたときは、構成を疑う。 同じ売上でも、利益の薄い仕事の比率が上がれば利益率は落ちる。品目別・得意先別に同じ 2 期比較をかける
  4. 業界の平均を自社の説明に使わない。 本稿の 4.42% は 39 社の合計から出した数字で、自社が達成すべき水準ではない。同じ層の中でも 20 ポイント以上の開きがある

本記事は公開情報(EDINET に提出された半期報告書等)の整理・解説であり、投資判断を目的としたものではない。数値は各社の提出書類に基づくが、最終的な確認は原本に当たられたい。