撤去される看板を間近で見る機会があると、たいてい同じ壊れ方をしている。赤がいちばん先に飛び、次に色の階調が消え、白地は黄ばみ、端から少しずつ浮いている。ところが、すぐ隣の建物に十年前から掛かっている看板が、まだ十分に読めることもある。同じ町の、同じ空の下である。
「何年もちますか」という質問に、正確に答えるのは難しい。インクの銘柄を答えても、それは答えの一部にしかならないからである。屋外のサインの寿命は、インクだけでなく、その上に載せた層、下にある基材、貼り付けた腕、そしてどちらを向けて取り付けたかで決まる。どれか 1 つが弱ければ、そこから全体が崩れる。
この記事では、まず「色があせる」という現象が分子の世界で何をしているのかから始める。そこから屋外で効いてくる 4 つの負荷、インクの種類で変わることと変わらないこと、ラミネートの役割、基材と施工、設置方位の影響、そして「何年もつ」という言葉が何を意味しているのかまでを順に見ていく。見積りの根拠を説明できるようになることが目標である。
3 年で読めなくなる看板と、10 年もつ看板がある
屋外に出した印刷物が劣化する速さは、想像以上にばらつく。同じ機械、同じインク、同じ日に出力した 2 枚が、2 年後にまったく違う状態になっていることは珍しくない。
この差を「インクの品質」に還元してしまうと、そこで説明が止まってしまう。実際の現場では、次のような要因がすべて同時に効いている。
- どの色を使ったか(色によって耐候性はまるで違う)
- ラミネートを掛けたか、掛けなかったか
- どんな基材に、どんな糊で貼ったか
- どちらの方位を向き、何度の傾きで取り付けられたか
- 庇の下か、雨ざらしか。近くに排気や海はあるか
つまり、寿命はインクという 1 点ではなく、材料と施工と環境からなる 1 本の鎖で決まる。鎖はいちばん弱い輪のところで切れる。だから「良いインクを使っているから大丈夫」という説明は、鎖の 1 輪だけを見ていることになる。
そもそも「もたなくなった」とは何が起きた状態か
もう 1 つ、話を難しくしているのは、劣化の現れ方が 1 種類ではないことである。撤去される看板を観察すると、少なくとも次の 5 通りの壊れ方がある。
| 現れ方 | 何が起きているか | 主に効いた原因 |
|---|---|---|
| 褪色・色の転び | 色材の分子が壊れた | 紫外線・熱 |
| 白っぽく粉を吹く(チョーキング) | 表面の樹脂が分解し、顔料が露出した | 紫外線・雨 |
| 細かいひび(クラック) | 膜が硬く脆くなり、伸縮に追随できなくなった | 紫外線・熱の伸縮 |
| 端の浮き・剥がれ | 糊の劣化、または下地との密着不足 | 水・熱・施工 |
| 汚れ・黒ずみ | 付着物が留まり、洗っても落ちなくなった | 汚れ・立地・表面性状 |
この 5 つは、原因も対策もまったく違う。「色があせた」と言われた現場に行ってみたら、実際にはチョーキングで白く曇っていた、ということは珍しくない。前者ならインクとラミネート、後者なら表面の樹脂と保護層の問題である。クレームの一次情報を鵜呑みにせず、現物を見て、どの壊れ方をしているかを見分けるところから始めたい。
この鎖を最後まで説明できるようになるには、まず「色があせる」とは何が起きているのかを知る必要がある。
色があせるとは、分子が壊れるということ
色材が色を持っているのは、その分子が特定の波長の光を吸収し、残りを返しているからである。赤い顔料は、青や緑の波長を吸収して赤い波長を返す。これは分子の構造、とくに電子の並び方によって決まっている。
ここで、光の側の性質が効いてくる。光は波であると同時に粒でもあり、その粒 1 個が持つエネルギーは、波長が短いほど大きい。可視光より波長の短い紫外線は、可視光より大きなエネルギーを持った粒として物体に当たっている。
そして、有機物の分子を組み立てている共有結合を切るのに必要なエネルギーは、ちょうど紫外線の光子が持つエネルギーと同じくらいの大きさの帯にある。つまり紫外線は、色材の分子を物理的に壊せるだけの力を持って降ってきている。
結合が切れると、分子の形が変わる。形が変われば、吸収する波長も変わる。もとの赤を作っていた構造が失われれば、その部分はもう赤を返さない。褪色とは、色が「薄くなる」のではなく、色を作っていた分子が別のものに変わってしまうことである。だから元に戻らない。
顔料と染料が違うのは、この点である
色材には大きく分けて顔料と染料がある。この 2 つは化学的な性質だけでなく、存在の仕方が違う。
| 顔料 | 染料 | |
|---|---|---|
| 状態 | 溶けない粒子として分散している | 分子の状態で溶けている |
| 光への強さ | 粒の内側は外側に守られる。一般に強い | 1 分子ずつ光にさらされる。一般に弱い |
| 発色 | 粒があるぶん、鮮やかさで不利な場合がある | 鮮やかで、階調も出しやすい |
| 屋外での使い方 | 屋外サインの基本 | 屋内・短期の掲出が中心 |
顔料が強いのは、粒子という「かたまり」で存在しているからである。表面の分子が壊れても、内側の分子はまだ生きている。染料は分子がばらばらに存在しているぶん、壊れた分がそのまま色の減少になる。
色によって寿命が違う理由
もう 1 つ、現場でよく効くのに見落とされがちなのが、色ごとの差である。赤やマゼンタ系の色材は、一般に他の色より早く褪色する傾向が知られている。逆に、黒や一部の無機系の顔料は非常に強い。
この差があるために、屋外の看板は「全体が均等に薄くなる」のではなく、色のバランスが崩れる形で劣化する。赤が抜けて全体が青緑に転ぶ、肌色が土気色になる、といった見え方になるのはこのためである。写真を大きく使ったデザインは、この崩れが目立ちやすい。
逆に言えば、長期の掲出が前提なら、デザインの段階で選べることがある。広い面積を微妙な中間色で埋めるより、はっきりした色面と黒の文字で構成したほうが、数年後の見え方は保たれる。これは印刷会社の側から提案できる価値である。
効いているのは「時間」ではなく「浴びた光の総量」
耐候性の話は年数で語られるが、分子の側から見れば、劣化を進めているのは時間ではなく、そこまでに浴びた光の総量である。1 年で受ける紫外線の量は、緯度、標高、天候、そして設置の向きによってはっきり違う。
この視点は実務でそのまま使える。たとえば同じ仕様の看板を、日照の多い地域の南面と、都市部のビルの谷間にある北面に出したとする。暦の上では同じ 1 年でも、色材が浴びた光の量は何倍も違う。だから前者が 3 年で限界を迎え、後者が 8 年もつということが、特別な事情なしに起こる。
「去年と同じものを作ったのに、今回だけ早く色が飛んだ」という相談を受けたときは、材料を疑う前に設置場所が変わっていないかを確認するとよい。同じ発注者、同じ仕様でも、掲出する店舗が変われば条件は別物になる。
もう 1 つの犯人 — 樹脂の側の劣化
色材ばかり注目されるが、劣化しているのは色材だけではない。顔料を抱えている樹脂、フィルムそのもの、糊も有機物である。樹脂が分解すると、表面が粉を吹いたようになる。触ると指に白い粉が付く、あの状態である。
これは色材が壊れたのではなく、色材を包んでいた樹脂が分解して顔料が露出した結果である。だから、洗えばいったん見た目が戻ることがある。しかし表面はすでに荒れており、以後は汚れが留まりやすく、劣化はむしろ速くなる。「洗ったらきれいになった」は回復ではなく、末期のサインであることが多い。
屋外で効いてくる負荷は 4 つある
紫外線は主犯だが、単独犯ではない。屋外の劣化は、次の 4 つが重なって進む。
光
すでに見たとおり、紫外線が分子の結合を切る。効くのは色材だけではない。フィルムそのもの、糊、ラミネートも有機物なので、同じように分解が進む。フィルムが黄変したり、脆くなって割れたりするのは、色材とは別の場所で同じことが起きているからである。
熱
直射日光の当たる看板の表面温度は、気温よりかなり高くなる。濃い色の面はとくに上がる。熱は、それ自体が化学反応を速める。温度が上がると、光による分解も、加水分解も、可塑剤の移行も、すべて速く進む。
もう 1 つ、熱は寸法にも効く。塩ビ系のフィルムと金属の基材では熱膨張の度合いが違うため、昼夜で伸び縮みの差が生じ、その差を糊が受け止めることになる。夏と冬を何度か越えるうちに、この繰り返しが端部の浮きにつながる。
水
雨、結露、そして空気中の湿気。水は糊の性能を落とし、切り口から入って層のあいだに回る。いちばん危ないのはカットした端面で、ここはフィルムの断面が露出しているため、水が入る唯一の入口になりやすい。
凍結も効く。入り込んだ水が凍って膨張すれば、層をこじ開ける力になる。寒冷地では、この繰り返しが剥離を早める。
汚れ
排気ガス、砂ぼこり、鳥のふん、海に近ければ塩分。汚れは見た目を落とすだけでなく、表面に留まって化学的に作用する。とくに水平に近い面は汚れが滞留し、乾かない時間が長くなる。
この 4 つは足し算ではなく掛け算で効く。紫外線で表面が微細に荒れれば汚れが留まりやすくなり、汚れが水を保持すれば加水分解が進み、脆くなった表面は熱の伸縮に耐えられなくなる。劣化は一度始まると加速する。
この「加速する」という性質は、点検の間隔を決めるときに効いてくる。掲出から数年は目立った変化がなく、ある時期を境に急に見た目が崩れる。等速で劣化すると思って点検を後回しにすると、気づいたときには貼り替えるしかない状態になっている。更新の判断は、崩れてからではなく、端の浮きや表面の曇りといった初期の兆候で行いたい。
手描きから、カッティング、そして出力へ
ここで少し時間軸を戻す。いまのサインの作り方は、ここ数十年でかなり大きく変わっている。何が置き換わり、何が置き換わらなかったのかを見ておくと、耐候性の話も位置づけやすくなる。
かつて、屋外の看板は塗る仕事だった。看板店の職人が下地を作り、文字を割り付け、塗料で描く。色は塗料そのものの色であり、耐候性は塗料の性能でほぼ決まった。文字の形は書き手の腕に依存し、同じ看板は二度と作れない。
ここにカッティングシートが入る。着色済みのフィルムを機械で文字の形に切り抜き、貼る。色はフィルムメーカーが作ったものなので品質が安定し、同じものを何枚でも作れるようになった。ただし、切り抜いて貼る方式である以上、階調のある絵柄は作れない。
それを可能にしたのが大判インクジェットである。白いフィルムやターポリンに直接絵柄を出力できるようになり、写真もグラデーションも屋外に出せるようになった。看板は「塗るもの」「切って貼るもの」から、「出力して貼るもの」へ変わった。
置き換わらなかったもの
ここで見落とされがちなのが、置き換わらなかった部分である。出力機がどれだけ進化しても、次の 3 つは変わっていない。
- 屋外の環境は同じ — 紫外線も熱も雨も、昔と同じだけ降ってくる
- 貼るのは人である — 下地処理・位置出し・気泡・端部の処理は、いまも施工者の腕に依存する
- 色材は有機物である — 塗料の顔料も、インクの顔料も、光で壊れるという性質は同じ
つまり、出力の技術が変えたのは主に表現の幅と生産性であって、耐候性そのものではない。「昔の手描き看板のほうが長もちした」と言われることがあるが、それは技術の後退ではなく、塗膜の厚みや使っていた塗料の性質、そして掲出のされ方が違ったという話である。
変わったのは、寿命の設計思想のほうだった
むしろ大きく変わったのは、看板に何年もたせるつもりでいるかという前提そのものである。
職人が 1 枚ずつ描いていた時代、看板は簡単には作り替えられなかった。だから厚く塗り、長く保たせることに意味があった。出力と施工でいくらでも作り直せるようになると、今度は「短期間で貼り替える」ことが選択肢に入る。季節ごとに絵柄を変えるほうが、10 年もつ 1 枚より価値が高い場面はいくらでもある。
この変化は、耐候性の議論を単純な「長いほど良い」から、「必要な期間に対して過不足がないか」へ移した。これは印刷会社にとっては悪い話ではない。掲出の期間を前提に仕様を組み立てられるということは、提案の幅がそれだけ広いということでもある。
カッティングが残っている理由
ついでに触れておくと、カッティングシートは出力に置き換えられて消えたわけではなく、いまも現役である。理由は 2 つある。
1 つは耐候性で有利な場面があること。着色されたフィルム自体が色を持っているため、表面の出力層が削れて色が失われるという壊れ方をしない。もう 1 つは「地」が要らないこと。ガラスや壁に文字だけを貼れるので、背景の白い四角が出ない。
技術は積み上がるものであって、必ずしも置き換わらない。用途で使い分けるという当たり前の結論が、ここでも当てはまる。
インクの種類で変わること、変わらないこと
屋外向けの大判出力で使われるインクには、いくつかの方式がある。それぞれ定着の仕方が違い、そこから適性の違いが出てくる。
| 方式 | 定着のしかた | 性格 |
|---|---|---|
| 溶剤系 | 溶剤がメディアの表面をわずかに溶かし、顔料が中に入り込む | フィルムとの一体感が高い。乾燥・換気の設備が要る |
| UV 硬化 | 紫外線で樹脂を固め、表面に膜を作る | 幅広い素材に出せる。膜が厚く、曲面や巻き取りでは柔軟性が要る |
| ラテックス系 | 水を飛ばし、熱で樹脂の粒子を融着させる | 臭気が少なく屋内作業に向く。熱をかける工程がある |
ここで大事なのは、この違いが「顔料そのものの強さ」を変えるわけではないということである。方式が変わっても、色を作っているのは顔料であり、顔料が光で壊れる速さは顔料の種類で決まる。
方式が効いてくるのは、主に次の点である。
- 顔料がどこに保持されるか — フィルムの中に入っているか、表面の膜に閉じ込められているか。剥がれや擦れへの強さが変わる
- 膜の柔らかさ — 硬い膜は、下地の伸縮についていけずに細かく割れることがある。曲面や車両では効く
- 樹脂そのものの耐候性 — 顔料を抱えている樹脂が先に劣化すれば、顔料が生きていても保たない
つまりインクの選定は「どれがいちばん強いか」ではなく、「どこに、どんな形で貼るか」から決まる。平らな看板板に貼るのか、曲面のある車両に貼るのか、風でばたつく幕なのか。用途が決まらないうちにインクの話をしても、答えは出ない。
膜の硬さが効く場面 — 曲面と可動部
硬い膜が問題になるのは、下地が動く場所である。車両のように曲面があり、走行の振動と昼夜の温度差で常に伸縮している対象では、膜が下地についていけるかどうかが寿命を分ける。追随できなければ、まず細かいひびが入り、そこから水が入って剥離に進む。
同じことが、風でばたつく幕や、開閉するシャッターにも言える。「動く場所には柔らかい仕様を」という原則は、屋外に限らず覚えておく価値がある。逆に、動かない平面の看板板であれば、膜の硬さはほとんど問題にならない。
白と特色をどう考えるか
屋外では、白が意外に難しい。白の顔料そのものは非常に強いことが多いが、白地は周囲の汚れと黄変が最も目立つ色でもある。褪色していなくても「汚れて見える」ため、更新を求められやすい。
また、蛍光色や一部の鮮やかな特色は、原理的に屋外向きではない。蛍光の発色は、紫外線を吸収して可視光として返す仕組みに依存しているため、その仕組みを担っている分子が、まさに紫外線で真っ先に壊れる。短期の掲出と割り切って使うか、避けるかのどちらかである。この点は、提案の段階で伝えておかないと後で必ず問題になる。
印刷物を守っているのは、上に載せた層である
屋外の掲出物で、寿命にいちばん大きく効くのに、見積りでは真っ先に削られるのがラミネートである。
ラミネートフィルムは、少なくとも 3 つの仕事をしている。
- 物理的に守る — 擦れ、砂ぼこり、洗浄、落書きの除去。インク層に直接触れさせない
- 紫外線を減らす — 紫外線吸収剤を含むものは、インクに届く紫外線そのものを減らす
- 水と汚れを寄せつけない — 表面が平滑であるほど汚れが留まりにくい
とくに 2 番目は、ここまでの議論からすると効き方が分かりやすい。紫外線が色材に届く量を減らせば、分解の速度そのものが下がる。インクの銘柄を変えるより、上に 1 層載せるほうが効く場面は多い。
艶ありと艶消しは、見た目だけの選択ではない
ラミネートには艶あり(グロス)と艶消し(マット)がある。この選択は好みの問題として扱われがちだが、屋外では実用的な差が出る。
| 艶あり | 艶消し | |
|---|---|---|
| 色の見え方 | 濃く、鮮やかに見える | やや浅く見える |
| 映り込み | 光源や空が映る。角度によって読めなくなる | 散乱するので映り込みが少ない |
| 汚れ | 拭き取りやすい | 表面が微細に粗いぶん、留まりやすいことがある |
| 向いている場所 | 屋内、正面から見るもの、暗い場所 | 屋外の明るい場所、斜めから読ませるもの |
屋外の看板で「昼間に読めない」という苦情が出るとき、褪色ではなく映り込みが原因のことがある。設置場所の明るさと見る角度を確認せずに艶ありを選んでいないか、確かめる価値がある。
屋内用のラミネートを屋外に使わない
ラミネートフィルムにも屋内向けと屋外向けがあり、価格差は小さくない。屋内向けは紫外線への配慮が薄く、屋外に出すとラミネート自体が先に黄変したり、脆くなって割れたりする。守るはずの層が先に壊れると、そこから紫外線と水が入るため、掛けないより悪くなることさえある。
また、ラミネートは「掛ければよい」というものでもない。掛ける工程で気泡やゴミを巻き込めば、そこが弱点になる。屋外品ほど、貼り合わせの品質そのものが寿命に効く。
ラミネート以外の守り方
面で守る方法はラミネートだけではない。設置の工夫でも、受ける負荷はかなり減らせる。
- 庇を付ける・軒下に入れる — 直射と雨がかりを同時に減らせる。最も費用対効果が高いことが多い
- ガラスやアクリルの内側に入れる — 掲示ケースに入れれば、水と汚れはほぼ遮断できる。ただし内部が高温になる点には注意が要る
- 掲出の期間を分ける — 通年で出すものと、季節ごとに差し替えるものを仕様から分ける
3 つめは提案として効く。すべてを長期仕様にする必要はない。差し替える前提のものを短期仕様にすれば、全体の費用を抑えたまま、恒久部分にしっかりした仕様を使える。
基材と施工が寿命の下限を決める
ここまで表面の話をしてきたが、実際に現場で早期に発生する不具合の多くは、色ではなく剥がれ・浮き・反りである。これらは基材と施工の領域にある。
基材の選定
アルミ複合板、ボード類、アクリル、ターポリン、そして既存の壁面。それぞれ表面の性質が違い、糊の効き方も熱の伸び方も違う。基材を決めずにメディアと糊を決めることはできない。
とくに注意が要るのは、既存の外壁や設備にそのまま貼る場合である。塗装面であれば、その塗装が下地にどれだけ密着しているかが上限になる。フィルムがしっかり付きすぎて、剥がすときに塗装ごと持っていくという事故もある。原状回復が必要な場所では、剥離のしやすさまで含めて選定する必要がある。
施工でほぼ決まってしまうこと
貼る工程で寿命が決まる部分は多い。とくに次の 4 点は、後から取り返しがつかない。
- 下地の清掃と脱脂 — 油分や粉が残っていれば、糊はそこには付かない。数年後に必ず浮く
- 気泡を残さない — 気泡の中の空気は温度で膨張と収縮を繰り返し、周囲の接着を少しずつ壊す
- 端部の処理 — 端が浮けば、そこから水と汚れが入る。角の丸めや、端を巻き込む処理が効く
- 糊が落ち着くまでの時間 — 貼った直後が最終的な接着力ではない。仕上げの確認は時間を置いてから行う
これらは目に見えにくい工程であり、見積りでは「施工費」の一言に丸められてしまう。しかし、ここを削ると、材料でどれだけ良いものを使っても寿命は縮む。説明できるようにしておきたい部分である。
幕とメッシュは、別の壊れ方をする
ターポリンなどの幕物は、貼るのではなく張る。したがって効いてくる負荷が変わる。紫外線や水はもちろんだが、それ以上に風による機械的な疲労が効く。ばたつきが続けば、ハトメの周囲や縫製部に力が集中し、そこから裂ける。
風を逃がすためにメッシュ地を選ぶという手はあるが、メッシュにすれば絵柄の密度は落ちる。強度と見え方はここでも交換関係にある。設置場所の風の当たり方を確認せずに素材を決めると、色が残っているのに裂けて撤去、ということになる。
剥がすときのことまで決めておく
屋外の掲出物には、必ず終わりがある。ところが見積りの段階で撤去まで話題になることは少ない。
剥離のしやすさは、糊の種類と経過年数で大きく変わる。年数が経つほど糊は硬くなり、きれいに剥がれなくなる。糊が残れば除去の手間がかかり、下地を傷めれば原状回復の費用が発生する。賃貸物件や共用部への掲出では、この点をあらかじめ確認しておきたい。
逆に、あとで貼り替えることが決まっているなら、剥がしやすい仕様を最初から選ぶという判断もある。強く付ければよいというものではない。
同じ看板でも、向きと角度で寿命が変わる
試験値や耐候年数は、ある条件のもとで測られた数字である。ところが実際の看板は、置かれる場所によって受ける負荷がまるで違う。
日本のような中緯度では、年間を通して受ける日射の量は、真上を向いた水平面がいちばん多くなる。垂直に立てた面は、太陽が高い夏場ほど斜めから受けることになるため、意外に負荷が小さい。北を向いた垂直面であれば、直射はさらに減る。
そして水平に近い面には、もう 1 つの問題がある。水と汚れが溜まって流れない。乾かない時間が長くなり、汚れが化学的に作用する時間も長くなる。上向きの掲出は、光・熱・水・汚れの 4 つがすべて最悪の条件で重なる置き方である。
そのほか、次のような条件も効く。
- 庇やひさしの有無 — わずかな庇でも、雨がかりと直射をかなり減らす
- 周囲の反射 — 白い壁面や水面の近くでは、上からだけでなく下からも光が来る
- 沿岸・幹線道路・工場の近く — 塩分や排気で汚れの負荷が上がる
- 風 — 幕やメッシュでは、ばたつきによる機械的な疲労が効く
したがって、耐候年数は「材料の性能」ではなく「材料と設置条件の組み合わせ」に対して言えるものである。この理解があると、同じ提案でも説明の仕方が変わる。
現場で確認しておきたい 6 つのこと
設置条件を聞くといっても、質問を用意していないと会話にならない。次の 6 つを確認できれば、仕様はかなり絞れる。
| 確認すること | 効いてくるところ |
|---|---|
| 掲出する期間(何年・何か月) | 仕様の全体。ここが決まらないと他が決まらない |
| 面の向きと傾き | 受ける日射の量。上向きに近いほど過酷 |
| 庇・軒の有無 | 直射と雨がかり。あるだけで条件が変わる |
| 下地の材質と状態 | 糊の選定、密着、剥離時の原状回復 |
| 立地(沿岸・幹線道路・工場の近くか) | 汚れと塩分の負荷 |
| 見る距離と角度、周囲の明るさ | 艶の選択、文字サイズ、映り込み |
この 6 つは、現地に行かなくても電話で聞ける。そして、聞いた内容はそのまま見積りの前提条件として書ける。前提を書いた見積りは、数年後に「思ったより早く傷んだ」と言われたときの共通の土台になる。
掲出中にできること
納めたら終わり、ではなく、掲出中の扱いで寿命は変わる。発注者に伝えておく価値があるのは次の 3 点である。
- 定期的に洗う — 汚れを溜めない。ただし研磨剤入りや強い溶剤は使わない(表面を傷めてかえって劣化を早める)
- 端の浮きを見つけたら早く直す — 浮きは自然には戻らず、そこから水が入って広がる
- 高圧洗浄機を至近距離で当てない — 端部から水を押し込む。剥離の直接の原因になる
とくに 3 つめは、建物の清掃業者が善意で行って問題になることがある。納品時に一言添えておくだけで防げる種類の事故である。
「何年もちます」と言えるのか
ここまで来ると、冒頭の質問に戻れる。「何年もちますか」に、どう答えるべきか。
促進試験と屋外暴露
耐候性の評価には、大きく 2 つの方法がある。1 つは屋外暴露試験で、実際に屋外に試験片を置いて、何年もかけて変化を測る。国内でも紫外線量の多い地域に試験場が置かれている。もう 1 つが促進耐候性試験で、キセノンアーク光源などを使い、強い光・熱・水を短期間に集中して当てる。
促進試験は速いが、注意点がある。促進倍率を単純に年数へ換算できない。試験機の中で起きる劣化と、屋外で起きる劣化は、進み方も壊れ方も同じとは限らない。屋外には、試験機が再現していない要素(汚れ、風、凍結、生物、施工の粗さ)がいくらでもある。
だから、答え方を変える
正直に言えば、「何年もちます」と単独で断定できる場面はほとんどない。答えるとすれば、次のような形になる。
- 条件を添える — 「垂直面・北向き・ラミネートあり」といった前提を明示する
- 何をもって寿命とするかを決める — 読めなくなるまでか、色の変化が分かるまでか。基準が違えば年数は倍以上違う
- メーカーが示す値の前提を確認する — 多くは条件付きの参考値であり、施工や設置条件までは保証していない
- 更新の前提で設計する — 何年で貼り替えるかを最初に決め、それに合う仕様を選ぶ
最後の点はとくに重要である。「できるだけ長く」ではなく「3 年で貼り替える」と決めれば、仕様も費用も無理なく決まる。キャンペーンの掲出に 10 年の仕様は要らないし、逆に恒久的な施設サインに短期の仕様を使えば、数年後に作り直すことになる。
年あたりの費用で比べる
掲出期間を決めてしまえば、比較の物差しも変わる。初期費用ではなく、年あたりの費用で比べられるようになる。
仮に、短期仕様が 10 万円で 3 年もち、長期仕様が 18 万円で 8 年もつとする。年あたりでは 3.3 万円と 2.3 万円で、長期仕様のほうが安い。ただし、この計算が成立するのは掲出内容が 8 年間変わらない場合だけである。3 年後にデザインを変える予定があるなら、長期仕様の余った 5 年ぶんはそのまま無駄になる。
ここで使った数字はもちろん仮のものである。要点は金額ではなく、「何年出すのか」「途中で内容が変わるのか」を先に聞けば、比較の土俵が作れるということである。この 2 つを聞かずに材料の話から入ると、話は必ず値段の比較に落ちる。
引き渡しのときに何を渡すか
もう 1 つ、耐候性の説明を実務に落とすなら、引き渡し時の記録が効く。使った材料の品名、ラミネートの有無、施工日、設置場所の向き。これを 1 枚にして渡しておくと、数年後の相談で議論が早い。
「同じものをもう 1 枚」と言われたときにも、記録がなければ再現できない。屋外の仕事は数年単位で戻ってくるので、記録の有無がそのまま次の受注のしやすさになる。
なお、屋外に看板を出すこと自体については、多くの自治体が屋外広告物に関する条例を定めており、場所や大きさによって許可や更新の手続きが必要になる。掲出の可否と手続きは必ず所轄の窓口で確認してほしい。
データを作る側でも、寿命は延ばせる
ここまで材料と施工の話をしてきたが、最後にデータを作る側の話をしておきたい。屋外サインは、デザインの段階で「数年後の見え方」を織り込める。
劣化しても読める構成にしておく
すでに見たとおり、色は均等に薄くなるのではなく、バランスを崩しながら褪せていく。したがって、色の差だけに頼った情報の伝え方は、時間とともに崩れる。
- 明るさの差で読ませる — 色相の差ではなく、明るさの差(濃い地に白抜き、白地に濃い文字)で組む。色が転んでも読める
- 細い線・小さな文字に情報を預けない — 表面が荒れると、細部から先に見えなくなる
- 写真は劣化が目立つ — 肌色や空の階調は、色のバランスが崩れると一気に不自然になる。長期の掲出では面積を抑える
読める距離から逆算する
もう 1 つ、屋外で軽視されがちなのが視認距離である。看板は近くで作られ、遠くから見られる。制作時にモニタの前で読めることは、掲出時に読めることをまったく保証しない。
目安として、文字が読める距離は文字の高さに比例して伸びる。仮に「文字の高さの 300 倍の距離まで読める」と置けば、高さ 10cm の文字は 30m 先まで、高さ 3cm の文字は 9m 先までということになる。この係数は書体・コントラスト・明るさ・見る人によって大きく動くので、そのまま使える数字ではない。だが、「この看板は何メートル先から読ませたいのか」を先に決めるという考え方は、そのまま使える。
視認距離を決めると、載せられる情報量が自然に決まる。30m 先から読ませたいなら、載る言葉は数語しかない。屋外の掲出物で情報を詰め込んでしまう事故は、たいていこの逆算を飛ばしたときに起きる。
まとめ — 見積りと説明に使える 5 つのこと
屋外サインの寿命は、材料・施工・環境からなる鎖で決まり、いちばん弱い輪で切れる。この見方を持つと、日々の判断が変わる。
- 「何年もちますか」には、設置条件を聞き返してから答える。向き・角度・庇の有無で答えが変わる
- ラミネートは削らない。紫外線が色材に届く量を減らすことは、インクを変えるより効くことが多い
- 長期の掲出はデザインの段階から関わる。色ごとに褪色の速さが違うため、数年後の見え方は構成で変えられる
- 端部と下地処理を工程として見積る。剥がれの起点はほぼここで、後から直せない
- 更新時期を先に決める。「できるだけ長く」ではなく年数を決めれば、仕様も費用も決まる
そして、ここに書いた性質はいずれも一般的な傾向であり、実際の材料と環境で結果は動く。掲出の年数を約束する案件では、必ず材料メーカーの仕様と条件を確認したうえで、前提を書いて渡してほしい。
サイン・大判に関するニュースは サイン・大判 のカテゴリにまとめている。屋外に出す前のデータの作り方については 入稿データの基本 も参照してほしい。