オフセット印刷とデジタル印刷のどちらで刷るか。現場では「何部から」という部数の話になりがちですが、実際の分岐点は部数だけでは決まりません。コストの構造、納期、在庫の持ち方まで含めて考えると、判断は案件ごとに機械的に出せるようになります。
コストの「形」がまったく違う
両者の違いは価格の高い安いではなく、費用のかかり方です。
- オフセット印刷: 刷版の出力、印刷機の準備、色合わせのヤレ紙といった部数に関係なくかかる費用が大きい。そのかわり、走り出したあとの 1 枚あたりは非常に安い
- デジタル印刷: 版が要らず段取りがほとんどない。そのかわり1 枚あたりの単価が最初から最後までほぼ一定で、刷っても下がりにくい
費用を部数のグラフにすると、オフセットは「高いところから始まって寝ていく線」、デジタルは「原点近くから一定の傾きで上がる線」になります。2 本が交わる点が損益分岐部数で、それより少なければデジタル、多ければオフセットが有利になります。
数字を当てはめてみる
実勢の単価は、機械・用紙・地域・取引条件でまったく変わります。ここでは考え方を示すための仮の数字として見てください。
| 条件(仮) | オフセット | デジタル |
|---|---|---|
| 準備費(版・段取り) | 30,000 円 | 0 円 |
| 1 部あたり | 10 円 | 60 円 |
| 300 部 | 33,000 円 | 18,000 円 |
| 600 部 | 36,000 円 | 36,000 円 |
| 2,000 部 | 50,000 円 | 120,000 円 |
この仮定だと分岐は 600 部です。大事なのは 600 という数字ではなく、自社の準備費と 1 部単価を入れれば同じ計算ができるということです。準備費が下がれば分岐点は下に、デジタルの単価が下がれば分岐点は上に動きます。この 2 つの値は自社の実績から出せます。
部数以外に分岐を動かす 4 つの要素
色数と用紙
特色や 5 色目を使う仕事、厚紙・特殊紙を使う仕事はオフセット側に寄ります。逆に、標準的なコート紙の 4 色であればデジタルの適用範囲は広くなります。用紙の対応厚みと、綴じ・箔押しなどの後加工との相性も先に確認しておく必要があります。
納期
版を作らないぶん、デジタルは着手までが短くなります。分岐点より多い部数でも、「明日必要」なら結果としてデジタルの方が安いということが起こります。機会損失を金額に含めるかどうかで判断は変わります。
在庫と改版
まとめ刷りは 1 部あたりを下げますが、使い切れなければ差額は消えます。年に数回内容が変わる資料、価格や担当者名が入る印刷物は、刷った量ではなく使った量で単価を計算し直す必要があります。倉庫代と廃棄の手間も同じ側に乗ります。
1 枚ずつ中身を変えられるか
宛名、番号、コード、地域別の差し替え。可変にできること自体が価値になる仕事は、部数にかかわらずデジタルの領域です。ここは価格競争ではなく提案の材料になります。
判断を人ではなく仕組みに寄せる
案件ごとにベテランが勘で決めていると、担当が変わったときに再現できません。次の 3 つを持っておくと、見積もりの段階で自動的に振り分けられます。
- 自社の準備費と 1 部単価を、実績から定期的に更新する
- 分岐部数を用紙・色数の代表的な組み合わせごとに一覧にしておく
- 納期・改版頻度・在庫の扱いを見積もり時のヒアリング項目に入れる
この 3 つがあれば、「小ロットはデジタル」という曖昧な運用から、条件を入れれば答えが出る状態に変えられます。
まとめ
オフセットとデジタルは競合ではなく、費用構造の違う 2 つの道具です。分岐点は自社の準備費と 1 部単価で決まり、そこに納期・在庫・可変の要素が乗って動きます。まずは直近の実績から自社の 2 つの数字を出してみてください。感覚で語っていた分岐部数と、実際の数字がずれていることは珍しくありません。
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