取引先から「CO2 の排出量を出してほしい」「環境に配慮した用紙の提案はあるか」と聞かれる場面が増えています。大手の要請から始まって、いまは中小の印刷会社にも順番に降りてきています。何から手を付ければよいのか、費用のかからない順に整理します。

なぜ取引先から聞かれるようになったのか

大企業は自社の排出量だけでなく、調達先を含めたサプライチェーン全体の排出量(Scope 3)を開示するようになりました。印刷物を発注する側から見ると、印刷会社の排出量は自社の Scope 3 の一部です。そのため「あなたの会社の数字を教えてほしい」という依頼が発生します。

ここで重要なのは、聞かれているのはまず数字であって、削減の実績ではないということです。立派な取り組みより先に、答えられる状態にしておくことが取引の条件になりつつあります。

まず測る — 3 つの区分を切り分ける

排出量は次の 3 つに分けて考えます。中小規模であれば、最初の 2 つは既存の請求書から出せます。

区分中身元になる資料
Scope 1自社での燃料の燃焼(ボイラー、社用車のガソリンなど)燃料・ガソリンの購入伝票
Scope 2購入した電気・熱の使用電力会社の請求書
Scope 3調達した紙・インキ、外注、輸送、廃棄など仕入・外注・運送の実績

Scope 1 と 2 は、使用量に排出係数を掛けるだけで算定できます。まずはここまでを年度単位で出しておけば、多くの問い合わせには答えられます。Scope 3 は範囲が広いので、紙とインキの調達量から着手するのが現実的です。

現場でできること — 投資の要らない順に

削減は、設備を入れ替える前にやることが残っています。

  • ヤレ紙を減らす: 色合わせの損紙、刷り直し、断裁ミス。これは環境対応であると同時に、そのまま原価の削減になる
  • 待機電力と空調: 稼働していない時間帯のコンプレッサー、乾燥機、照明。稼働記録と電力使用の時間帯を突き合わせると、無駄が見える
  • まとめ刷りと面付けの見直し: 用紙の取り都合を上げれば、紙の使用量そのものが減る
  • 廃液・廃棄物の分別と記録: 適正処理は法令上の義務であり、量の記録は Scope 3 の材料にもなる

設備更新は効果が大きいものの投資も大きいので、上の 4 つで現状を把握してから優先順位を決めるほうが順序として無理がありません。省エネ関連の補助制度は毎年度の公募があるため、更新時期が近い設備があるなら早めに情報を集めておきます。

資材の選択肢を説明できるようにする

提案を求められたときに、選択肢と違いを言えることが実務上いちばん役に立ちます。

  • 森林認証紙(FSC・PEFC): 適切に管理された森林の木材を使った紙。ラベルを印刷物に表示するには、印刷会社側に CoC 認証(加工・流通過程の管理)が必要。紙を買うだけでは表示できない点に注意
  • 再生紙: 古紙の配合率で選ぶ。白色度や強度との兼ね合いがあるため、用途と併せて提案する
  • 植物油インキ・ノン VOC インキ: 石油系溶剤の使用を抑えたインキ。乾燥条件が変わることがあるので、現場での確認が要る
  • 水なし印刷: 湿し水を使わない印刷方式。廃液が出ない一方、専用の版と温度管理が必要になる

それぞれにコストと仕上がりの条件が伴います。「環境に良いから」ではなく、どの条件なら成立するかを添えて提案できると、価格の話に流れにくくなります。

認証と表示 — 使うなら正しく

業界には印刷工場の環境配慮を評価する認定制度(日本印刷産業連合会のグリーンプリンティング認定など)があり、取得すれば発注側への説明が容易になります。一方で、認証ラベルの表示にはそれぞれ規定があります

  • FSC ラベルは CoC 認証を持つ事業者が、規定に沿った形でのみ表示できる
  • 根拠を示せない「エコ」「環境にやさしい」といった表現は、優良誤認と受け取られるおそれがある
  • 算定した数値を出すときは、対象範囲(どの Scope か、どの期間か)を必ず添える

過大な表示は、環境対応そのものより大きな信用の問題になります。持っている認証と算定した範囲だけを、そのまま書くのが安全で、結果的にいちばん強い説明になります。

まとめ

環境対応は、認証の取得や設備投資から入ると止まります。まず電気と燃料の請求書から Scope 1・2 を算定し、ヤレ紙と待機電力という原価にも効く部分から削減する。そのうえで、資材の選択肢と自社が表示できる認証を整理する。この順番なら、費用をかけずに「答えられる会社」になれます。

業界の取り組みは環境・サステナで追えます。