朝いちばん、給紙部で紙が二枚取りされる。午後には収まる。翌週の同じ仕事では起きない。断裁したはずの寸法が、翌日測ると 0.5mm 足りない。刷り上がった冊子の天地が、わずかに波打っている。

どれも「紙のせいですね」で片付けられる。実際そのとおりなのだが、この言い方では何も解決しない。紙の何がそうさせているのかを言えなければ、次に同じことが起きたときも同じ言葉を繰り返すことになる。

この記事では、紙のトラブルを個別の現象として並べない。紙が「繊維でできている」ことと「水を吸う」ことという、たった 2 つの性質から全部を導く。目(繊維の向き)、寸法変化、カール、腰、折り割れ、静電気。現場で出てくる症状は、この 2 点の帰結として説明できる。原理を押さえたうえで、抄紙の経緯、症状の読み解き方、保管と養生、そして避けられないことまでを見ていく。

紙のせいだと言われるが、紙の何のせいなのか

まず、現場で「紙が原因」とされる症状を並べてみる。一見、まったく別々の問題に見える。

症状いつ出るか
給紙で二枚取りする、詰まる乾燥した時期、湿気た時期の両方
表と裏で見当が合わない両面印刷。大判ほど大きい
断裁後に寸法が動く翌日、あるいは納品先で測ったとき
折ると背が割れる厚紙、乾燥した時期
冊子の天地が波打つ製本後、しばらく置いてから
紙が反る(カール)印刷後、開封後
静電気で貼り付く乾燥した時期

これらは別々の問題ではない。ほとんどが、次の 2 つの性質のどちらか、あるいは両方から出ている。

  • 紙は繊維が絡み合ってできており、その繊維には向きの偏りがある
  • 紙は水を吸い、放す。そして吸うと寸法が変わる

この 2 つを押さえると、上の表は 1 枚の地図になる。順に見ていこう。

紙は繊維が絡み合ってできている

紙を薄く裂いて断面を見ると、無数の細い繊維が絡み合っているのが分かる。この繊維は植物由来のもので、太さも長さもばらついている。

重要なのは、繊維どうしを繋いでいるのが接着剤ではないということである。繊維の表面にある水酸基どうしが、水を介して近づき、乾燥する過程で直接結びつく。この結合が紙の強さを作っている。

だから、水が入ると弱くなる

結合が水を介して作られているということは、逆もまた成り立つ。水分が入り込めば、結合は緩む。濡れた紙が簡単に破れるのは、繊維が切れたからではなく、繊維どうしの結びつきが外れたからである。

この性質は、程度の差はあれ常に働いている。空気中の湿気を吸っただけでも、結合はわずかに緩む。紙の強さは、その日の湿度によって変わっている。

繊維は「太る」のであって「伸びる」のではない

もう 1 つ、寸法の話で決定的に効く性質がある。繊維が水を吸うと、主に太さの方向に膨らむ。長さの方向の変化は、それに比べてずっと小さい。

この非対称性を頭に入れておくと、次章以降がすべてつながる。繊維の並んでいる向きには伸びにくく、それと直交する向きには大きく伸びる。

繊維だけでできているわけではない

もっとも、紙は繊維だけの塊ではない。実際には、目的に応じていくつかのものが加えられている。

加えるもの役割効いてくるところ
填料(てんりょう)繊維のすき間を埋める鉱物の粉白さ、不透明度、平滑さが上がる。強さは下がる
サイズ剤水のしみ込みを抑えるインキのにじみ、糊の効き方
塗工層(コート)表面に塗る顔料の層平滑さと光沢。インキが沈み込まない
嵩高剤繊維の詰まり方を緩める同じ重さで厚みが出る(腰が強くなる)

ここから、実務でよく出てくる差が説明できる。填料が多いほど白く滑らかだが、繊維の結合は減るので強さは落ちる。だから、白くて安い紙は折りに弱いことがある。塗工紙のインキの乗りが良いのは、繊維の層まで沈み込まずに表面に留まるからである。

繊維の長さでも性質が変わる

原料となる木の種類によって、繊維の長さが違う。長い繊維は絡み合いが多く、強い紙になる。短い繊維は隙間が細かく、表面が滑らかな紙になる。

実際の紙は、この 2 種類を目的に応じて配合して作られている。段ボールの原紙のように強さが要るものは長い繊維を多く、印刷用紙のように平滑さが要るものは短い繊維を多く。「強さと滑らかさは交換関係にある」という基本構造は、ここから来ている。

そして、古紙を再生するたびに繊維は短くなっていく。再生紙が同じ坪量でも腰が弱く感じられることがあるのは、この性質による。

抄くときに繊維が揃う — これが「目」である

では、繊維はなぜ揃うのか。抄紙の工程から出てくる。

抄紙のときに繊維が流れの向きに揃い、それが紙の目になることを示した図
図1: 紙の性質の多くは、この 1 枚の図から出てくる。抄くときの流れが、繊維の向きを決める。

紙は、水に分散させた繊維を網の上に流し、水を抜きながら作られる。このとき、繊維は流れの向きに沿って並びやすい。川に落ちた枝が流れの向きを向くのと同じことである。

完全に揃うわけではないが、明らかな偏りが残る。この偏りが紙の目である。仕上がりの向きに対して繊維がどちらを向いているかで、縦目・横目と呼び分ける。

目が決めている 4 つのこと

性質目に沿う向き目と直交する向き
引っ張りへの強さ強い弱い
折ったときの仕上がりきれいに折れる割れやすい
吸湿したときの伸び小さい大きい
腰(張り)強い弱い

この表のすべてが、繊維の向きという 1 点から出ている。引っ張りに強いのは繊維が力を受け持つから、折りがきれいなのは繊維に沿って裂けるから、伸びが小さいのは繊維が長さ方向には膨らまないから。

目の見分け方

手元で確かめる方法がいくつかある。どれも道具が要らない。

  • 裂く — 目に沿って裂くと、比較的まっすぐ裂ける。直交する向きは蛇行する
  • 短冊にして垂らす — 同じ幅の短冊を縦横 2 枚作り、端を持って垂らす。垂れにくいほうが目に沿っている
  • 爪でしごく — 目に直交する向きにしごくと、波打って伸びる
  • 水を付ける — 片面に少し水を付けると、目に沿った軸を中心に丸まる

仕様書に書かれた目と、現物が違っていることは実際にある。厚紙で折りや製本を伴う仕事では、着荷時に確かめておく価値がある。

水を吸うと太る、放すと縮む

2 つめの性質に進む。紙は常に、周囲の空気と水分をやりとりしている。

繊維が吸湿すると太さ方向に膨らみ、紙は繊維の並びと直交する向きに大きく伸びることを示した図
図2: 1 本の繊維の膨らみ方が、紙 1 枚の伸び方を決めている。伸びは幅方向に大きく出る。

紙は、一般に数パーセント程度の水分を含んでいる。この含水率は固定ではなく、置かれている環境の湿度に応じて上下する。湿度の高い部屋に置けば吸い、乾いた部屋に置けば放つ。

寸法が変わる

先に見たとおり、繊維は太る方向に膨らむ。したがって紙は、繊維の並びと直交する向きに大きく伸縮する。目に沿う向きの変化は、それよりずっと小さい。

この非対称性が、実務でそのまま出てくる。

  • 大判ほど絶対量が大きい — 伸び率が同じでも、寸法に比例して差が出る
  • 方向によって差が出る — 縦横で違う伸び方をするので、単純な拡大縮小では合わない
  • 刷るあいだにも変わる — 湿し水、熱、機械の中の時間

表と裏で違うとカールする

表裏の含水率が違うと紙が反ることと、現場での出方を示した図
図3: カールは紙の欠陥ではなく、表裏で状態が違うことの結果である。

紙の片面だけが乾けば、その面が縮む。両面が繋がっているので、逃げ場がない。結果として乾いた側に向かって反る。

原因はいくつもある。印刷の熱で片面だけ乾く。片面にだけインキが乗る。積まれた紙束の外側だけが室内の空気に触れる。封を切ったまま放置する。どれも「表裏で状態が違う」という 1 点に還元できる。

手で漉く紙から、機械で抄く紙へ

ここで少し歴史をたどっておきたい。「目がある」という性質は、紙そのものに元から備わっていたわけではない。作り方が生んだものである。

手漉きの紙には、強い目がない

手で漉く紙は、簀(す)を前後左右に揺すりながら作る。繊維は一方向に流れ続けるのではなく、行ったり来たりする。結果として、繊維の向きは機械抄きほど偏らない。

和紙が縦横どちらにも比較的強く、折りにも耐えるのは、繊維が長いことに加えて、この向きの偏りが小さいことも効いている。

機械で抄くようになって、目ができた

紙を連続的に大量に作るには、繊維を流し続ける必要がある。網の上を一定方向に流していく方式が確立したことで、生産量は桁違いに増えた。そのかわり、繊維は流れの向きに揃った。

つまり、紙の目は工業化の副産物である。避けられるものではなく、大量に安く作るという要請と引き換えに受け入れたものだと考えたほうがよい。

だから「目を指定する」という作法が生まれた

目が生じることを前提にすると、次にできるのは使う向きを指定することである。書籍の本文用紙は、開きやすさのために目の向きを決めて使う。折りを伴う印刷物では、折り位置と目の関係を決める。

原紙の寸法表記に目の向きが併記されているのも、この必要から来ている。寸法だけでなく向きまで発注時に決まるのは、紙という材料の特殊なところである。

紙という材料が、どれだけ長く使われてきたか

もう少し引いて考えたい。紙は、記録のための材料として二千年近く使われ続けている。途中で何度も代替候補が現れたが、置き換わらなかった。理由は、この材料が相反する性質を同時に満たしていることにある。

  • 薄くて軽いのに、破れにくい — 繊維の絡み合いによる
  • 柔らかいのに、形を保つ — 折れば折り目が残り、平らに戻せば平らになる
  • インキを受け止め、乾かす — 多孔質で、液体を吸い込む
  • 安く、大量に作れる — 原料が植物であり、再生もできる

この 4 つを同時に満たす材料は、いまも多くない。フィルムは破れにくいが折り目が汚く、乾かない。金属は形を保つが重い。紙の弱点として語られる「水に弱い」「伸び縮みする」という性質は、実は同じ長所の裏側である。水を吸うからインキが定着し、繊維が動くから折れる。

この見方をしておくと、現場での構えが変わる。紙の伸縮は、直すべき欠陥ではない。付き合い方を設計する対象である。

洋紙と和紙で、性質が違う理由

同じ紙でも、和紙と洋紙では手触りも強さもまるで違う。この差の大半は、繊維の長さ作り方から出ている。

和紙に使われてきた原料の繊維は長く、絡み合いが密になる。加えて、漉くときに簀を揺すって繊維の向きを散らす。結果として、薄いのに強く、方向による差の小さい紙になる。障子紙が薄くて破れにくいのも、古い文書が千年残るのも、この構造による。

一方の洋紙は、大量生産に最適化されている。速く、均一に、安く作ることを優先した結果、繊維は短く、向きは揃った。印刷という工程にとっては、均一さと平滑さのほうが重要だったからである。

どちらが優れているという話ではない。それぞれが、求められた用途に最適化された結果である。そして、その最適化の跡が、いま現場で出るトラブルの形を決めている。

坪量・連量・原紙寸法 — 数字の読み方

紙にまつわるもう 1 つのつまずきが、単位である。同じ紙を指すのに、坪量で言う人と、連量で言う人がいる。ここも経緯を知ると整理できる。

坪量は「面積あたりの重さ」

坪量は 1 平方メートルあたりのグラム数(g/m²)で、紙そのものの性質を表す値である。原紙の寸法に依存しないので、銘柄をまたいで比較できる。

連量は「その寸法で 1000 枚の重さ」

一方、連量は決められた原紙寸法で 1000 枚積んだときの重さ(kg)である。したがって、同じ坪量でも原紙の寸法が違えば連量は違う。

これが、現場で混乱が起きる原因である。「90kg の紙」と言われても、どの原紙寸法での 90kg かが分からなければ、厚みが決まらない。

主な原紙寸法寸法主な用途
四六判788 × 1091mm一般的な商業印刷。連量の表記で最もよく使われる
菊判636 × 939mm書籍など
A 列本判625 × 880mmA 判の仕上がり向け
B 列本判765 × 1085mmB 判の仕上がり向け

実務での結論は 1 つである。連量で話すときは、必ず原紙寸法とセットにする。そして、銘柄をまたいで厚みを比べるなら坪量で見る。

なぜ「重さ」で紙を測るのか

そもそも、なぜ厚みではなく重さで表すのか。理由は 2 つある。

1 つは、重さのほうが正確に測れるからである。紙は柔らかく、押せば潰れる。厚みを測るには圧力の条件を決める必要があるが、重さにはその曖昧さがない。

もう 1 つは、紙の取引が重量で行われてきたからである。輸送も保管も重さで扱う。作る側から見ても、抄紙の管理は面積あたりの重さで行うのが自然である。

ただし、印刷物を使う人が体感するのは厚みと腰である。だから坪量と厚みが別々に仕様書に書かれている。同じ坪量でも、嵩高に作られた紙は厚く、腰が強い。この関係は 段ボールと紙器はなぜ強いのか で扱った「曲げ剛性は厚さの 3 乗で効く」という話と直結している。

現場で出る症状を、2 つの性質から読み解く

ここまでの原理で、冒頭の表を読み直せる。

症状原因効く手
両面で見当が合わない刷るあいだに寸法が変わった表裏の間隔を空けすぎない。環境を揃える
断裁後に寸法が動く断裁後も環境と水分をやりとりしている納品先の環境で測る。前提を共有する
折ると割れる目と直交して折っている/乾燥している目の向きを見直す。罫線を入れる
冊子の天地が波打つページごとに含水率が違う/目が揃っていない用紙の目を揃える。養生する
カールする表裏で含水率が違う環境を揃える。積み方・置き方を見直す
静電気で貼り付く乾燥して電荷が逃げない湿度を上げる。除電する
給紙で二枚取り/詰まるカール・静電気・腰の低下上のいずれか。まず環境を疑う

注目したいのは、「効く手」の欄に同じ言葉が繰り返し出てくることである。環境を揃える、目の向きを見直す。この 2 つで、症状の大半に手が届く。

季節で症状が変わる理由

冬に多い症状と、梅雨時に多い症状は違う。

  • 乾燥期 — 静電気、折り割れ、腰が出すぎて折りにくい、カール
  • 多湿期 — 寸法が伸びる、腰が落ちる、給紙で貼り付く、乾きが遅い

同じ仕様の仕事で、季節によって出るトラブルが変わるのは正常である。「去年はうまくいったのに」という相談を受けたら、まず時期を確認したい。

目と含水率が、加工の工程で効いてくる

印刷そのものより、後ろの工程のほうが紙の性質に敏感である。

折りと製本

折りは、目の向きが最も効く工程である。目に沿って折れば繊維に沿って曲がり、直交して折れば繊維を横切ることになる。後者は表層が引っ張られ、割れやすい。

製本では、綴じの向きと目の関係が開きやすさを左右する。目が綴じ方向と直交していると、開きにくく、戻ろうとする。ページ数の多い書籍でこの向きを間違えると、読みにくい本になる。

断裁

断裁そのものは目の影響を受けにくいが、断裁したあとの寸法変化が問題になる。工場で正確に断ったものが、納品先で測ると違う、ということが起こりうる。

ここは受け取る側との合意の問題でもある。厳密な寸法が要る仕事では、測る条件(環境)まで含めて決めておくのが実務的である。

箔押し・エンボス

圧と熱をかける加工では、含水率が仕上がりを左右する。乾きすぎていれば割れやすく、湿りすぎていれば形が戻りやすい。試作したときと本番で環境が違えば、結果も違う。詳しくは 後加工はなぜ最後に効いてくるのか で扱っている。

糊付け

接着は、紙の表面と水分の状態に左右される。表面加工がしてあれば糊が効かず、含水率が高ければ乾きが遅い。製函や封筒で「付かない」という不具合は、糊より紙の側に原因があることが多い。

保管と養生 — 印刷会社にできること

紙の性質は変えられない。変えられるのは環境と扱いである。ここは費用をかけずにできる部分が多い。

包装を切るタイミング

用紙は防湿の包装で届く。この包装は、輸送中の湿度変化から中身を守っている。切った瞬間から、紙は室内の空気とやりとりを始める。

したがって、使う直前まで開けないのが基本になる。開けたまま数日置いた紙は、外側と内側で状態が違っている。中途半端に残った紙をそのまま積んでおくと、次に使うときに反っている。

紙を環境に馴らす(養生)

とはいえ、届いた紙をそのまま機械に通すのも危うい。倉庫と印刷室の温湿度が違えば、機械の中で変化が始まる。

そこで、包装したまま印刷室に置き、紙の温度を室温に合わせてから開封するという手順が効く。冷えた紙をいきなり暖かい部屋で開ければ、結露に近いことが起きる。時間の目安は紙の量と温度差によるが、「前日に運び込む」だけでも違う。

置き方

  • 床に直置きしない — 床は冷たく、湿気が上がってくる。パレットや台に載せる
  • 壁から離す — 外壁側は温度差が出やすい
  • 平らに積む — 立てかけると、自重で反る
  • 残りは包み直す — 使い残しは包装で覆い、日付を書いておく

印刷室の環境そのもの

本格的な空調設備は投資が要るが、まず測るところからは今日できる。温湿度計を印刷室・断裁場・倉庫に置き、日々の値を記録する。トラブルが出た日の環境が分かるだけで、原因の切り分けが速くなる。

記録がなければ、季節の影響は永遠に「なんとなく」のままである。

湿度をどこまで管理するか

理想を言えば、印刷室の温湿度は一定に保たれているのがよい。ただし、工場全体を空調で管理するには相応の投資が要る。ここでも順番がある。

まず効くのは、差をなくすことである。倉庫と印刷室、印刷室と断裁場、昼と夜。絶対値を狙う前に、工程のあいだで環境が飛ばないようにする。紙は「ある湿度に置かれること」より「湿度が変わること」で動くからである。

次に効くのが、変化を緩やかにすることである。開封したまま置かない、扉を開けっぱなしにしない、直射日光や暖房の吹き出しの前に紙を置かない。どれも投資ではなく運用の話で、今日から変えられる。

そのうえで設備を検討するなら、範囲を絞る。工場全体ではなく、紙を置く場所と、印刷機の周りだけでも効果は出る。全部を一度にやろうとすると、費用が理由で何も進まない。

紙を返品・転用するときの扱い

もう 1 点、見落とされやすいのが余った紙の扱いである。一度開封して現場に置かれた紙は、届いたときと同じ状態ではない。

そのまま別の仕事に転用すると、そこで初めてトラブルが出る。カールしている、寸法がわずかに違う、静電気を帯びている。「同じ銘柄・同じ坪量だから同じ」とは限らない。

実務としては、包み直したうえで開封日を書いておくのが確実である。日付があれば、転用するときに養生の要否が判断できる。書いていなければ、いつ開けたかは誰も覚えていない。

それでも避けられないこと

ここまでの対策を尽くしても、残るものがある。限界を正直に押さえておきたい。

紙は環境と釣り合おうとし続ける

どれだけ管理しても、納品先の環境まではこちらで決められない。倉庫が高湿度なら紙は吸い、暖房の効いた事務所なら放つ。数か月後の状態を保証することはできない。

できるのは、その前提を共有しておくことである。とくに寸法の厳しい仕事、長期に保管される仕事では、受け渡しの時点で条件を書いておきたい。

ロットによる差がある

同じ銘柄・同じ坪量でも、製造のロットが違えば、繊維の配合や表面の状態がわずかに違う。増刷で「前回と違う」と言われる原因の一部はここにある。

対策は単純で、継続する仕事は用紙をまとめて確保する。手配の段階でしかできないので、営業が知っているかどうかが結果を分ける。

「良い紙」が常に正解ではない

もう 1 点。厚く、白く、平滑な紙が常に良いわけではない。用途によっては、腰の弱い紙、目の粗い紙のほうが向いている。折りの多い冊子に厚い紙を使えば割れるし、ページ数の多い本に腰の強い紙を使えば開かない。

紙は、仕上がりの形と使われ方から選ぶ。スペックの数字だけで選ぶと、加工の工程で困ることになる。

発注側に、どう説明するか

紙の性質は、印刷会社の内部で完結する話ではない。発注側が理解していないと、こちらの努力が正当に評価されない。説明の型をいくつか持っておきたい。

「寸法は環境で変わります」を、先に言う

厳密な寸法が求められる仕事では、納品後に測って違うと言われる可能性がある。これを後から説明すると、言い訳に聞こえる。

先に言えば前提の共有になる。「紙は湿度で寸法が変わるため、測る環境によって差が出ます。厳密さが必要でしたら、測定の条件を決めさせてください」。この 1 文を見積りに添えるだけで、後の議論の形が変わる。

「この紙では割れます」を、設計の段階で言う

厚い紙を目に直交して折れば割れる。これは避けようがない。できるのは、設計の段階で伝えることだけである。

そして、選択肢を一緒に出す。目の向きを変える、罫線を入れる、紙を変える、折り方を変える。問題だけを伝えると相談は止まるが、選択肢を添えれば前に進む。

「安い紙」の意味を説明する

単価だけで紙を選ぼうとする相談は多い。ここで効くのが、本記事で見てきた構造の説明である。

填料が多ければ白く滑らかだが、繊維の結合は減る。だから折りに弱い。再生繊維の比率が高ければ、繊維は短く、腰は落ちる。「安い紙は品質が悪い」ではなく、「この紙はこういう構造なので、この工程で不利になります」と言えるかどうかで、説得力がまるで違う。

そして、この説明は安い紙を否定するものではない。折りのないチラシなら、腰の弱さは問題にならない。用途に合っていれば、安いことは純粋な利点である。構造から説明できると、勧めるときも止めるときも同じ言葉で話せる。

まとめ — 明日から変わる 5 つのこと

紙のトラブルは、繊維の向きと含水率という 2 つの性質からほとんど説明できる。原理が分かっていれば、症状から原因へ遡れる。

  • 「紙のせい」で止めず、目か水分かを切り分ける。この 2 択に落とすだけで、次の一手が決まる
  • 折り・製本のある仕事は、目の向きを着荷時に確かめる。仕様と現物が違うことは実際にある
  • 用紙は使う直前まで開封しない。開けたら使い切るか、包み直す
  • 前日に印刷室へ運び込む。温度を合わせるだけで、給紙も見当も安定する
  • 印刷室と倉庫に温湿度計を置き、記録する。費用はほぼゼロで、原因の切り分けが速くなる

紙は、工業製品でありながら生き物のように環境に応じて変わる。その性質を欠陥として扱うか、前提として設計に織り込むかで、現場の落ち着きはまるで違う。

機材・技術の記事は 機材・技術 にまとめている。刷る方式の選び方は オフセット印刷とデジタル印刷の分岐点、紙の上での色の出方は オフセット印刷の色はなぜ合わないのか も参照してほしい。